石川忠房

石川忠房（いしかわ ただふさ）

石川忠房は、宝暦5年（1756年）に生まれ、天保7年（1836年）に82歳で没した江戸時代の旗本です。伊丹左兵衛勝興の次男として生まれましたが、後に石川忠国の養子となりました。幼名は岩次郎、通称は太郎右衛門、六右衛門と称し、官位は従五位下、左近将監です。

生涯

忠房は、その卓越した能力から、遠山景晋、中川忠英と共に「文政三傑」と称され、文政年間の能吏として知られています。

1763年、石川鍋八郎忠国の養子となり、翌年には家督を継ぎました。その後、大番、大番組頭を経て、1791年に目付に就任。同年末には布衣を許されています。1793年には、通商を求めてきたロシアの使節ラクスマンとの交渉役を任じられ、同じく目付の村上義礼と共に「宣諭使」として派遣されました。根室に滞在していたラクスマンを松前に呼び寄せ、鎖国政策を堅持する幕府の意向を伝え、長崎入港の信牌を渡すことで交渉をまとめました。また、ロシアに漂流していた大黒屋光太夫、磯吉の身柄を引き取るという功績も残しました。

1795年には作事奉行に任命され、同年末に従五位下、左近将監に叙任されました。1797年には勘定奉行となり、翌年からは道中奉行も兼任し、駅制の改革にも尽力しました。特に、中山道安中宿が人馬の継ぎ立てに苦しんでいた状況を改善するため、定助郷に加え、24ヶ村を増助郷とする措置を行い、その負担を軽減しました。この功績により、地元の人々から生神として祀られ、現在も生祠が現存しています。

1801年には蝦夷地御用掛を兼任し、根室、知床方面を巡検。その後も西丸留守居役、小普請組支配などを歴任し、1819年には勘定奉行に再任されました。1828年には本丸御留守居役となり、その生涯を幕府の要職で過ごしました。

1836年に82歳で没し、牛込の幸國寺に葬られました。養子の忠良は既に亡くなっていたため、翌年には孫の石川忠敏が家督を相続しました。

人物

忠房は和歌にも才能を発揮し、ラクスマンが帰国する際には、「異国の 船ふきおくれ 日本の たみを恵みの 天津神かぜ」と詠んでいます。また、松前派遣時の和歌を集めた「石川左近将監詠草」が現存しています。

石川忠房は、幕府の要職を歴任し、数々の難題を解決した有能な官僚であると同時に、文化人としての側面も持ち合わせた人物でした。

脚注

生祠は群馬県安中市に現存。
群馬県桐生市堤町にも生祠が現存。
「石川左近将監詠草」は北海道大学に所蔵。

参考文献

日本人物大辞典（講談社）
* 国史大辞典（吉川弘文館）

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