羽尾信号場

羽尾信号場：スイッチバックの遺構

長野県千曲市に位置していた羽尾信号場は、東日本旅客鉄道（JR東日本）篠ノ井線に属する信号場でした。1966年3月27日、日本国有鉄道（国鉄）によって開設され、国鉄分割民営化後もJR東日本の管轄下で運行を続けました。特筆すべきは、その構造です。羽尾信号場は、スイッチバック方式を採用した信号場であり、国内でも後発の珍しい存在でした。開業当初から無人駅で、姨捨駅から遠隔操作されていました。

スイッチバックと廃止

羽尾信号場がスイッチバック方式を採用していた理由は、地形の制約と効率的な運行の両面から考えられます。この区間は比較的駅間距離が短く、列車の運行速度向上に伴い、従来の線路配置では運行効率の悪さが顕著になってきました。そのため、線路の効率化を目的としてスイッチバック方式が採用されたのです。しかし、その結果として、運行の複雑さが生じることや、維持管理の負担増加につながるなど、課題も存在していました。

2008年3月15日のダイヤ改正では、羽尾信号場への入線列車がなくなりました。これは、線区のスリム化、つまり運行の効率化を図るための措置でした。廃止を惜しむ声も多く、同年7月5日には「スイッチバック街道惜別羽尾号」という臨時快速列車が運行されました。そして、2009年3月14日、羽尾信号場は廃止されました。

構造と周辺環境

羽尾信号場は、冠着駅から姨捨駅方面へ約3.7キロメートル地点、姨捨駅へ向かう下り勾配上にありました。シーサスクロッシング1基と引き上げ線2本を備えた、典型的なスイッチバック式の構造です。シーサスクロッシングは現在撤去され、その跡地には保線用車両の留置のための短い側線が設置されています。周辺は高台にあり、麓には集落が点在する、自然豊かな場所でした。

歴史とその後

羽尾信号場は、潮沢信号場、桑ノ原信号場と共に、日本で最後に設置されたスイッチバック式の信号場の一つでした。これらの信号場は、高度経済成長期における交通量増加と、それに伴う線路改良の必要性から生まれたものです。しかし、時代の変化とともに、これらの信号場の役割は徐々に減少していき、最終的には廃止の道を辿りました。羽尾信号場は、日本の鉄道史において、近代化と効率化という側面の一端を示す貴重な存在でした。廃止後も、その跡地は地域の風景の一部として、往時の面影を留めていることでしょう。 現在では、その存在を偲ぶものは、わずかに残された線路跡と、地元住民の記憶だけかもしれません。しかし、その独特のスイッチバック方式や、廃止までの歴史は、日本の鉄道史における重要な一ページとして、これからも語り継がれていくことでしょう。

隣の駅

冠着駅
姨捨駅

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