羽田空港再国際化
かつて日本の首都圏における唯一の空港として、国内外の航空便を担っていた東京国際空港、通称「羽田空港」は、高度経済成長期を迎えた1960年代に入り、航空需要の爆発的な増加に直面しました。海外旅行の自由化、東京オリンピック開催、そして大型航空機ジャンボジェット（ボーイング747）の登場などが、この需要を加速させた要因です。
1970年頃には、羽田空港の処理能力は限界に達し、増加する航空需要への対応が困難であると当時の運輸省は予測しました。この飽和状態を解消し、首都圏の航空需要を受け入れるため、新たな空港の建設が必要とされ、激しい反対運動を乗り越え、1978年に千葉県成田市に「新東京国際空港」（現在の成田国際空港）が開港しました。これに伴い、それまで羽田に集中していた国際線は、台湾の中華航空（チャイナエアライン）を除く全便が成田へ移管され、「国内線は羽田、国際線は成田」という役割分担、すなわち「内際分離」の体制が長期間続くことになります。
しかし、成田空港には大きな課題がありました。それは「都心からの距離」です。都心から約15kmという近距離にある羽田に対し、成田は約60km以上離れており、世界の主要都市の空港と比較してもアクセスに課題がありました。成田新幹線計画も頓挫するなど、都心へのアクセスの悪さは常に問題として指摘されていました。
こうした背景の中、内際分離体制は徐々に変化の兆しを見せ始めます。1998年3月には、羽田に暫定的な国際線旅客ターミナルビルが設けられ、成田開港後も羽田に残っていたチャイナエアラインや、後に新規乗り入れしたエバー航空（同じく台湾）が利用しました。ただし、これは限定的なものであり、2002年には両社とも他の国際線と同様に成田発着となりました。
本格的な再国際化への第一歩は、2000年代に入ってからじわじわと踏み出されました。2002年サッカーワールドカップ日韓大会を契機に、羽田と韓国やグアムを結ぶ深夜早朝時間帯のチャーター便が運航されるようになり、特に2003年11月の羽田〜金浦間の定期チャーター便就航は、羽田再国際化の「幕開け」と位置づけられています。
そして、再国際化は2010年代に入り、一気に加速します。2009年10月、当時の前原誠司国土交通相は、長年の内際分離原則を見直し、羽田空港を24時間運用可能な国際的なハブ空港として整備する方針を明確に発表しました。この方針を決定づけたのが、2010年10月21日のD滑走路（4本目の滑走路）と新国際線ターミナル（現在の第3ターミナル）の供用開始です。これまでの暫定的な施設は閉鎖され、これにより32年ぶりに羽田から国際定期便が発着するようになりました（実際に国際定期便の運航が始まったのは同年10月31日から）。
一方、羽田の正式な国際化に先立つ形で、成田空港側でもアクセス改善が進められました。2010年7月には成田スカイアクセス線が開業し、京成スカイライナーを利用すれば都心まで最速36分と、従来より大幅に所要時間が短縮されました。これは開港当初に比べ、アクセス利便性が飛躍的に向上したことを意味します。
羽田の再国際化はさらに進展します。2011年2月には、ヨーロッパ系航空会社として初めてブリティッシュ・エアウェイズが羽田に就航しました。同時期にアメリカン航空やデルタ航空といった主要なアメリカ系航空会社も羽田乗り入れを開始しています。当初、国際線の発着枠は深夜・早朝時間帯に限定されていましたが、2014年3月30日の国際線ターミナル拡張などにより、次第に日中時間帯の運航も可能となり、羽田再国際化のペースは一層速まりました。
2014年夏スケジュールからは、ルフトハンザドイツ航空やエールフランス航空といったヨーロッパの大手航空会社も羽田に就航しました。これらの航空会社はそれまで成田線で大型機を運航していましたが、羽田路線の開設による増便などの影響で機材の小型化が進み、超大型旅客機エアバスA380が日本路線から姿を消す一因ともなりました。
羽田への国際線集中が進む中で、国土交通省は2014年夏ダイヤ頃から、羽田への新規国際線就航を希望する航空会社に対し、成田便も維持するよう求める行政指導を行いました。これは通称「成田縛り」と呼ばれ、利便性の高い羽田に多くの航空会社が国際線を移し、国有企業である成田国際空港株式会社が運営する成田空港の経営が危機に瀕するのを防ぐこと、つまり羽田の国際化が過度に一方的に進むことを抑制する目的がありました。この「成田縛り」は、航空法などに明確な法的根拠があるわけではなく、あくまで事実上の「紳士協定」に近いものでしたが、航空会社にとっては無視できない指導であり、強い拘束力を持っていました。しかし、このルールも時間の経過とともに変化していくことになります。
羽田空港再国際化は、首都圏における航空ネットワークのあり方を大きく変化させ、国内外の移動に新たな選択肢と利便性をもたらしました。
1970年頃には、羽田空港の処理能力は限界に達し、増加する航空需要への対応が困難であると当時の運輸省は予測しました。この飽和状態を解消し、首都圏の航空需要を受け入れるため、新たな空港の建設が必要とされ、激しい反対運動を乗り越え、1978年に千葉県成田市に「新東京国際空港」（現在の成田国際空港）が開港しました。これに伴い、それまで羽田に集中していた国際線は、台湾の中華航空（チャイナエアライン）を除く全便が成田へ移管され、「国内線は羽田、国際線は成田」という役割分担、すなわち「内際分離」の体制が長期間続くことになります。
しかし、成田空港には大きな課題がありました。それは「都心からの距離」です。都心から約15kmという近距離にある羽田に対し、成田は約60km以上離れており、世界の主要都市の空港と比較してもアクセスに課題がありました。成田新幹線計画も頓挫するなど、都心へのアクセスの悪さは常に問題として指摘されていました。
こうした背景の中、内際分離体制は徐々に変化の兆しを見せ始めます。1998年3月には、羽田に暫定的な国際線旅客ターミナルビルが設けられ、成田開港後も羽田に残っていたチャイナエアラインや、後に新規乗り入れしたエバー航空（同じく台湾）が利用しました。ただし、これは限定的なものであり、2002年には両社とも他の国際線と同様に成田発着となりました。
本格的な再国際化への第一歩は、2000年代に入ってからじわじわと踏み出されました。2002年サッカーワールドカップ日韓大会を契機に、羽田と韓国やグアムを結ぶ深夜早朝時間帯のチャーター便が運航されるようになり、特に2003年11月の羽田〜金浦間の定期チャーター便就航は、羽田再国際化の「幕開け」と位置づけられています。
そして、再国際化は2010年代に入り、一気に加速します。2009年10月、当時の前原誠司国土交通相は、長年の内際分離原則を見直し、羽田空港を24時間運用可能な国際的なハブ空港として整備する方針を明確に発表しました。この方針を決定づけたのが、2010年10月21日のD滑走路（4本目の滑走路）と新国際線ターミナル（現在の第3ターミナル）の供用開始です。これまでの暫定的な施設は閉鎖され、これにより32年ぶりに羽田から国際定期便が発着するようになりました（実際に国際定期便の運航が始まったのは同年10月31日から）。
一方、羽田の正式な国際化に先立つ形で、成田空港側でもアクセス改善が進められました。2010年7月には成田スカイアクセス線が開業し、京成スカイライナーを利用すれば都心まで最速36分と、従来より大幅に所要時間が短縮されました。これは開港当初に比べ、アクセス利便性が飛躍的に向上したことを意味します。
羽田の再国際化はさらに進展します。2011年2月には、ヨーロッパ系航空会社として初めてブリティッシュ・エアウェイズが羽田に就航しました。同時期にアメリカン航空やデルタ航空といった主要なアメリカ系航空会社も羽田乗り入れを開始しています。当初、国際線の発着枠は深夜・早朝時間帯に限定されていましたが、2014年3月30日の国際線ターミナル拡張などにより、次第に日中時間帯の運航も可能となり、羽田再国際化のペースは一層速まりました。
2014年夏スケジュールからは、ルフトハンザドイツ航空やエールフランス航空といったヨーロッパの大手航空会社も羽田に就航しました。これらの航空会社はそれまで成田線で大型機を運航していましたが、羽田路線の開設による増便などの影響で機材の小型化が進み、超大型旅客機エアバスA380が日本路線から姿を消す一因ともなりました。
羽田への国際線集中が進む中で、国土交通省は2014年夏ダイヤ頃から、羽田への新規国際線就航を希望する航空会社に対し、成田便も維持するよう求める行政指導を行いました。これは通称「成田縛り」と呼ばれ、利便性の高い羽田に多くの航空会社が国際線を移し、国有企業である成田国際空港株式会社が運営する成田空港の経営が危機に瀕するのを防ぐこと、つまり羽田の国際化が過度に一方的に進むことを抑制する目的がありました。この「成田縛り」は、航空法などに明確な法的根拠があるわけではなく、あくまで事実上の「紳士協定」に近いものでしたが、航空会社にとっては無視できない指導であり、強い拘束力を持っていました。しかし、このルールも時間の経過とともに変化していくことになります。
羽田空港再国際化は、首都圏における航空ネットワークのあり方を大きく変化させ、国内外の移動に新たな選択肢と利便性をもたらしました。
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