翟義

翟義（てき ぎ）

翟義は、前漢末期の激動の時代に生きた政治家であり武将です。王莽による簒奪に抵抗し、反乱を起こしましたが、志半ばで倒れました。彼の生涯は、当時の社会情勢や人々の苦悩を映し出す鏡として、歴史に深く刻まれています。

生涯

出自と初期の事跡

翟義は、豫州汝南郡上蔡県（現在の河南省上蔡県）の出身。父は丞相を務めた翟方進であり、その末子として生まれました。任子制度により早くから官界に入り、南陽郡の都尉にまで昇進しました。都尉時代には、権勢を誇っていた王莽の一族である劉立を不正を理由に逮捕するという大胆な行動に出ています。

反乱決起への道

平帝の死後、王莽が実権を掌握し、「仮皇帝」として振る舞うようになると、翟義は強い危機感を抱きます。王莽の簒奪の野望を阻止するため、挙兵を決意しました。同時期に、安衆侯劉崇も王莽に対して反乱を起こしており、社会全体に不満が鬱積していたことがうかがえます。また、王莽による貨幣改鋳は、列侯たちの不満を買い、翟義の反乱計画を後押しする要因となりました。

反王莽の挙兵

翟義は、王莽の簒奪を阻止するため、同志を募り、ついに挙兵に踏み切ります。劉信を天子として擁立し、自らは大司馬・柱天大将軍を名乗り、独自の朝廷を樹立。各地に檄を飛ばし、王莽の悪政を訴えました。翟義の軍は瞬く間に勢力を拡大し、その数は十数万人に達したと伝えられています。

王莽の対応

翟義の反乱に対し、王莽は当初、大きな衝撃を受けました。腹心や各官吏に兵を率いさせ鎮圧に乗り出します。周公旦の故事に倣い、自作の『大誥』を作成し、政権を孺子嬰に返還する意図があることを表明しました。

反乱の失敗と最期

しかし、翟義の軍は王莽軍の前に敗れ、散り散りになります。翟義自身も捕らえられ、都で処刑。その遺体は晒しものにされました。王莽は翟義の邸宅を破壊し、父祖の墓を暴き、一族を皆殺しにするという徹底的な報復を行いました。

評価

翟義の反乱は、結果として失敗に終わりました。しかし、王莽の簒奪に抵抗した彼の行動は、後世に様々な議論を呼びました。班彪は、『漢書』において翟義の行動を「己の力量を計り切れず、忠義の心を抱いて発憤したが、その宗族を損なってしまった」と評しています。

参考文献

東晋次『王莽―儒家の理想に憑かれた男』（白帝社アジア史選書）、白帝社、2003.10
渡邉義浩『王莽―改革者の孤独』（あじあブックス）、大修館書店、2012.12

翟義の生涯は、激動の時代における個人の選択と、その結末の悲劇性を私たちに教えてくれます。彼の名は、歴史の片隅に埋もれることなく、語り継がれるべきでしょう。

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