孺子嬰

孺子嬰（じゅし えい）

孺子嬰は、前漢王朝の終焉を象徴する皇太子です。簒奪者、王莽の傀儡として祭り上げられ、短命な地方政権の皇帝としてその生涯を閉じました。彼の人生は、激動の時代における政治的陰謀と個人の運命を浮き彫りにしています。

生涯

元始5年（5年）、広戚侯劉顕の子として生まれた劉嬰は、漢の宣帝の玄孫にあたります。平帝の崩御後、後継者がいなかったため、わずか2歳で王莽によって皇太子に擁立されました。これは、幼少の皇太子を利用し、自らが政治の実権を握るための王莽の策略でした。

漢の皇太子として

幼い劉嬰は「孺子」と呼ばれ、王莽の摂政下で名目的な皇太子の地位に置かれました。王莽は、あらゆる手段を用いて自らの権力を強化し、簒奪の準備を進めました。占いを利用して劉嬰を擁立したのも、その一環でした。王莽は自らを「摂皇帝」と称し、皇帝に準じた権威を振るいました。

王莽が実権を握ると、各地で反乱が勃発します。安衆侯劉崇や東郡太守翟義らは、王莽の簒奪を阻止しようと兵を挙げましたが、鎮圧されました。これらの反乱は、王莽の独裁的な支配に対する不満の表れでした。

王莽による簒奪

居摂3年（8年）、王莽はついに皇帝の座を簒奪し、新王朝を樹立しました。劉嬰は皇太子を廃され、「定安公」に封じられました。これは事実上の軟禁であり、劉嬰は外部との接触を絶たれ、無為な日々を送ることを余儀なくされました。

新王朝の定安公として

定安公となった劉嬰は、監視下に置かれ、教育も制限されました。王莽は、劉嬰が成長しても政治に関与できないように、徹底的な管理を行いました。かつての皇太子は、完全に政治の舞台から閉め出されたのです。

最期と地方政権の皇帝

王莽の新王朝は短期間で崩壊し、各地で内乱が勃発しました。地皇4年（23年）に王莽が殺害されると、各地で群雄が割拠する時代が到来しました。漢復2年（24年）、隴右の隗囂の軍師であった方望は、劉嬰を皇帝として擁立することを計画し、長安から探し出しました。

更始3年（25年）1月、劉嬰は皇帝として即位し、地方政権を樹立しましたが、その勢力は弱く、更始帝（劉玄）の討伐を受けました。劉嬰は戦死し、21歳という若さで波乱の生涯を終えました。

劉嬰の生涯は、時代の波に翻弄された悲劇の皇太子の物語です。王莽の野望と漢朝の終焉、そして内乱の時代が、彼の運命を大きく狂わせました。

年号

居摂: 6年 - 8年
初始: 8年

家族

后妃: 王氏（王莽の孫、王宇の娘）

参考文献

東晋次『王莽―儒家の理想に憑かれた男』（白帝社アジア史選書）、白帝社、2003.10
* 渡邉義浩『王莽―改革者の孤独』（あじあブックス）、大修館書店、2012.12

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