老人の肖像 (フィリッピーノ・リッピ)

『老人の肖像』は、イタリア・ルネサンス期の画家フィリッピーノ・リッピに帰属される肖像画です。1485年頃に制作されたとされ、瓦の表面にフレスコ画法で描かれている点が特徴的です。この作品は、かつて芸術の庇護者であり収集家・学者でもあったレオポルド・デ・メディチ枢機卿のコレクションに所蔵されていました。その後、1773年よりフィレンツェのウフィツィ美術館に収蔵されています。なお、1784年と1825年の目録では、一時的にマサッチオの作品とされていました。

作品の特徴

この絵画の特筆すべき点は、瓦という特殊な素材にフレスコ画法で描かれていることです。使用されている瓦は、ローマ風と呼ばれる屋根の覆いに用いられる煉瓦の一種で、両縁がわずかに傾斜して反り上がった台形のような形状をしています。

本作のモデルとなった人物については、長年にわたり議論が重ねられてきました。彼は、フィリッピーノの父であり、同じく画家であったフィリッポ・リッピが所属していたカルメル会の修道服を身に着けています。そのため、多くの研究者はモデルをフィリッポ・リッピであると考えていますが、確証は得られておらず、決定的な答えは出ていません。

絵画に描かれた老人は、控えめな笑みを浮かべ、穏やかな表情をしています。その表情には、修道服の襞と調和するように深い皺が刻まれています。特に、鮮やかな桃色の皺は、戸外で長い時間を過ごした人物の特徴を表しています。修道服と同色の被り物は、薄明かりによってわずかに輝きを放ち、老人の耳を覆い、押しつけています。また、彼の大きな鼻は、顔が4分の3正面を向いていることを強調する要素となっています。

参考文献

『ウフィツィ美術館展 黄金のルネサンス ボッティチェリからブロンヅィーノまで』小佐野重利編、TBSテレビ（2014年）

外部リンク

ウフィツィ美術館公式サイト (目録)、フィリッピーノ・リッピ『老人の肖像』

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