考古堂書店

新潟県新潟市中央区に店を構える考古堂書店は、書籍の販売と出版を手がける企業です。明治時代に古書店として創業しましたが、現在は医学書の専門販売と、郷土の文化や偉人に関する出版活動を主要な事業としています。

歴史

その歴史は1911年（明治44年）に遡ります。兵庫県出身の柳本実之介が新潟市の古町通4番町に古書店を開業したことに始まります。「古きを考え、新しきを知る」という理念を込めて「考古堂書店」と名付けられました。開業当初は実之介と見習いの小僧という小規模な家族経営でした。実之介は読書家であり、特に漢籍の収集を趣味としていましたが、個人的な収集を優先することもあったため、必ずしも商売としては成功していませんでした。

1932年（昭和7年）に実之介が亡くなると、長男の誠一が家業を継ぎました。誠一は従来の古書販売に加え、新たに新刊部を設け、取次店や出版社から小説や雑誌なども仕入れて販売するようになりました。店の近くに新潟薬科大学（現在の新潟大学医学部）があったことから、多くの大学教授や医学生が訪れるようになり、これを機に医学の専門書や教科書、さらにはドイツの医学書の原書まで取り扱いを開始しました。医学生たちは新刊書で学び、夏休みには古書として本を売って旅費を捻出し、帰省後には再び新刊書を購入するという循環が生まれ、古書と新刊の部門が共に機能するようになりました。

しかし、1947年（昭和22年）8月25日、休日に趣味の登山に出かけた誠一は長男の慎一と共に五頭山で遭難し、父子ともに帰らぬ人となりました。誠一の急逝後、10年間は妻の睦江や甥の和夫が中心となり、店の経営を支えることとなります。

1958年（昭和33年）に、雄一の次男である雄司が三代目として店を継ぎました。雄司は大学時代に親友の父親から強い感銘を受けました。その人物が良寛を専門に描く画家であったことから、雄司も良寛の世界に深く惹かれていきました。雄司は大学を休学し、東京・神保町の医学書専門店で一年間の修行を積んでから新潟に戻りました。帰郷後の最初の10年間は、文字通り無我夢中で顧客のもとを回る日々を送りました。医学書販売の営業エリアは新潟県全域へと拡大し、1965年（昭和40年）には法人化を果たしました。旧社屋が手狭になったことから、1966年（昭和41年）には上古町商店街に地上4階建ての新社屋ビルを建設しました。ビルの外壁には画家の河内舟人氏による、良寛が子どもたちと和やかに読書する様子を描いた色鮮やかなモザイクタイルが設置されました。また、良寛が読書の楽しみを詠んだ歌「世の中にまじらぬとにはあらねども独り遊びぞわれはまされる」の歌碑も設置され、その彫金は当時の黒埼町（現在の新潟市西区）在住の作家、亀倉蒲舟氏が手がけました。

1972年（昭和47年）には出版部を設立し、出版事業に進出しました。出版第一号は、全国にある良寛の石碑と拓本を紹介する『いしぶみ良寛』でした。専門的な内容にもかかわらず、本書は版を重ねて1万部を超える販売実績を上げ、「いい本を作れば売れる」という確かな手応えを得ることとなります。その後、良寛に関する書籍は200点以上にも及び、関連出版では全国有数の規模となりました。また、良寛だけでなく、会津八一や相馬御風、上杉謙信といった新潟出身の偉人に関する書籍も手がけ、郷土に根ざした出版事業が経営の大きな柱の一つとなっていきました。

1974年（昭和49年）、東京の大型書店が新潟市に出店する計画が明らかになると、考古堂書店は大きな決断を下します。「書籍の絶対量では太刀打ちできないなら、医学書だけは量でも質でも負けない」と考え、一般書の販売をやめ、医学書専門店となることを選択しました。医学書に注力する傍ら、ユニークな出版活動を通じて新潟の文化を全国に発信し続けました。1982年（昭和57年）に創刊した季刊雑誌『良寛』は、良寛研究や愛好家からの寄稿文などを掲載し、25年間、50号まで継続しました。また、1984年（昭和59年）からは科学季刊雑誌『ミクロスコピア』を2008年（平成20年）まで発行しました。藤田恒夫新潟大学名誉教授が編集長を務め、生命科学の最先端研究を分かりやすく紹介したこの雑誌を、地方の出版社が長年にわたり発行し続けたことは、「新潟の奇跡」とも称賛されました。

2001年（平成13年）には雄司の長男である和貴が社長に就任し、事業を継承しました。2006年（平成18年）からは新潟大学医歯学総合病院内に開設された書店の提携運営を開始しました。さらに2016年（平成28年）には新潟医療福祉大学内にも医学書専門店の開設を実現しています。現在、考古堂書店の営業は新潟県を中心に、隣県の山形県や富山県にも展開しています。同社は「医学書の外商が中心であるため、売上の著しい落ち込みはそれほどない」としつつも、「今後どうやって生き残っていくのかが最大の課題」と認識しています。また、「医学は日々進歩しており、医学書も情報の更新が必要不可欠である。医学書という信頼性の高い商品を扱うサイトや流通の新しい仕組みを構築できないか、業界全体で取り組んでいる」と、変化の速い時代における今後の展開を見据えています。

もう一度検索