聖イシュトヴァーンの王冠

聖イシュトヴァーンの王冠：ハンガリーの聖なる象徴

聖イシュトヴァーンの王冠は、ハンガリーの聖冠とも呼ばれ、現存する王冠の中で唯一の聖なる象徴として知られています。ハンガリー王国の戴冠の証として、12世紀以降、歴代の王が受け継いできました。

王冠の概要

王冠は、聖イシュトヴァーン1世にちなむもので、ハンガリー、クロアチア、リエカ周辺からの持ち出しが禁じられています。ハンガリーの王は、この王冠を受けないと正式な戴冠と認められず、歴史上50人以上の王がこの冠を戴いてきました。

1256年以降、聖冠と呼ばれるようになり、14世紀頃からは、王家の権力を象徴する客観的な事物としての役割を持つようになりました。ハンガリー王国は、王を飾る王冠ではなく、王冠にふさわしい王を求めるという、ヨーロッパでも珍しい状況を生み出しました。

ハンガリーの国旗・国章にも意匠として描かれ、法源としても扱われ、ハンガリーの法制にも影響を与えています。

王冠の歴史

現存する聖冠は、コロナ・グラエカとコロナ・ラティーナの2つのパーツで構成され、東ローマ帝国の影響を受けたベーラ3世の時代に現在の形に加工されたとする説があります。イシュトヴァーン1世の戴冠をもってハンガリー王国の成立とされ、聖冠の起源については、ローマ教皇がイシュトヴァーン1世に贈ったとする説も存在します。

しかし、聖冠がローマから授与されたという記述が完全に欠落している文献や、バチカンに授与を示す文書が存在しないなど、異論も多く存在します。また、神聖ローマ皇帝オットー3世がイシュトヴァーン1世の戴冠に同意したという報告がありますが、王冠についての記述はありません。

1978年に王冠がハンガリーに返還され、調査が可能になるまで、イシュトヴァーン1世の時点での聖冠の形状は不明でした。調査の結果、エナメル画の技法や彫刻の言語の違いから、2つのパーツが異なる時代に作られたことが示唆されています。

聖冠は戴冠式の際にのみ使用され、普段は2人の王冠守護者によって守られています。盗難、隠匿、国外への持ち出しなどの歴史を経て、第二次世界大戦中はアメリカ軍に引き渡され、フォート・ノックスに保管されました。1978年、アメリカ政府の命令でハンガリーに返還され、1990年には紋章への復帰を果たしました。2000年1月1日には、国会議事堂へと移されました。

王冠の構成

聖冠は金製で、エナメル画、宝石、真珠などで飾られており、コロナ・グラエカ、コロナ・ラティーナ、頂部の十字架の3つの部分から構成されています。

コロナ・グラエカ: 幅5.2cm、直径20.5cmの円環部で、全能者ハリストスや東ローマ帝国皇帝ミカエル7世ドゥーカスなどが描かれています。
コロナ・ラティーナ: コロナ・グラエカに取り付けられたドーム状の部分で、4枚の金製の板が中央パネルに溶接されています。使徒の絵が描かれています。
* 十字架: 頂点に取り付けられた十字架で、16世紀頃に取り付けられ、17世紀頃に曲がったとされています。

王冠の法的効果

イシュトヴァーン1世は戴冠式において、聖母マリアと王冠との契約を守るため、聖なる王冠に忠誠を誓いました。この契約は、将来にわたって君主に聖性を付加するために行われました。聖冠はハンガリーの法的代表とされ、国の主権を表現し、正統な君主と特権諸身分との間の有機的統一を確立するものとされました。この考えは「聖なる王冠の理論」と呼ばれ、ハンガリーの右傾化を促進しました。

現在でも、ハンガリーの公文書や紋章に聖冠が使用されており、近隣諸国との間で論争の的となっています。2011年に制定された『ハンガリー基本法』前文では、イシュトヴァーン1世の戴冠を国家建国と位置づけ、「聖冠」が「歴史的な憲法の成果」を示すと述べています。また、聖なる王冠・国歌・国旗・国章を損壊もしくは侮辱する者には、拘禁刑が科せられます。

クラウンジュエル

ハンガリー王の戴冠のシンボルは、ほとんど全てが現存しています。戴冠用のマントは、イシュトヴァーン1世と王妃ギーゼラが1031年頃に作らせたものと判明しています。宝珠と笏もイシュトヴァーン1世の時代のものとされ、笏はファーティマ朝の貴重な工芸品です。

聖イシュトヴァーンの王冠は、ハンガリーの歴史と文化において非常に重要な意味を持つ、聖なる象徴なのです。

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