ハンガリーの歴史

ハンガリーは、ヨーロッパほぼ中央、東ヨーロッパの山岳地帯に囲まれたドナウ川中流域の盆地に位置します。冷涼で乾燥した草原が広がるこの地域は、古来より遊牧に適しており、中央ユーラシアのステップ地帯から多くの遊牧民が侵入し、拠点を築いてきました。やがてキリスト教世界の一員となり、周辺のスラヴ民族やオーストリア、オスマン帝国などの影響を受けながら、独自の歴史を歩んできました。冷戦時代には、共産主義圏でありながらいち早く民主化を進め、東欧革命の先駆けとなりました。

概史

建国まで

1世紀にはローマ帝国が属州パンノニアを置き、4世紀にはゴート族が到来しました。5世紀にはフン族、6世紀にはアヴァール人がこの地に定着しました。5世紀頃からウラル山脈中南部～アゾフ海北岸周辺にいたウゴル系遊牧民のマジャル人は、テュルク系のオグール（ブルガール人）と混ざり合い、9世紀には黒海北岸～ロシア南部のヴォルガ川南岸付近の草原地帯に到達しました。その後、大首長アールパードは共同統治者の名誉最高首長クルサーンとともにバルカン半島を経由してハンガリー平原に移住。アールパードはパンノニア平原を根拠地とし、東・中部ヨーロッパ各地を騎馬で荒らし回りました。

955年、アールパードの孫タクショニュは、レッヒフェルトの戦いでオットー1世に敗北。シャーマニズムによる自然崇拝を放棄し、カトリックに改宗、パンノニア平原に統一王国を建設しました。同時に、現地のスラヴ人やラテン人、ドイツ人、テュルク系民族などと混血し、同化していきました。

ハンガリー王国

1000年、タクショニュの孫であるイシュトヴァーン1世がキリスト教に改宗し、ローマ教皇からハンガリー国王として聖別を受け戴冠、ヨーロッパ世界の一員となりました。ハンガリー王国は、北部のスロヴァキア、南部のクロアチアなどのスラヴ人を支配下に入れ、ルーマニアのトランシルヴァニアにも勢力を拡大しました。この時代がハンガリーの絶頂期であり、中欧の強国として君臨しました。この時代の領域は「聖イシュトヴァーンの王冠の地」と呼ばれ、ハンガリーの歴史観において重要な位置を占めています。

1240年にはモンゴル帝国の侵略を受け、甚大な被害を受けました。この経験から、ハンガリー国王は防衛体制を強化。貴族に土地を与え城塞を築かせ、城壁を持つ都市の発展を促しました。シビウ、ブラショフ、コシツェなどがその例です。

1301年にアールパート朝が断絶すると選挙王制となり、ナポリ王国のアンジュー家から王が出ました。15世紀には、トランシルヴァニア貴族のフニャディ家のマーチャーシュ1世の時代に最盛期を迎えました。

ハプスブルク帝国とオスマン帝国

14世紀にはオスマン帝国が台頭し、バルカン半島に進出。1526年のモハーチの戦いで国王ラヨシュ2世が戦死し、ヤギェウォ王家が断絶すると、王冠はハプスブルク家が継承しました。

オスマン帝国のスレイマン1世はハンガリーを直轄地とし、トランシルヴァニアを保護領としました。ハプスブルク家はハンガリーの北部と西部を支配し、ハンガリーは約150年にわたり分割統治され、両国の係争地となりました。

1683年の第二次ウィーン包囲以後の大トルコ戦争を経て、1699年のカルロヴィッツ条約でハンガリーのほぼ全域がハプスブルク家のものとなりました。これに反発したハンガリー人貴族ラーコーツィ・フェレンツ2世との間で民族解放運動が起こりましたが、1711年に鎮圧されました。

オーストリア＝ハンガリー二重帝国

19世紀中盤になると、ハプスブルク帝国の影響力は低下。1848年の2月革命でオーストリアが混乱すると、コシュート・ラヨシュがペシュトで武装蜂起し、自治政府を設立しました。しかしオーストリア軍に鎮圧され、独立は失敗しました。

1866年の普墺戦争でプロイセンに敗北すると、フランツ・ヨーゼフ1世はハンガリー人の自治権拡大を認め、1867年にオーストリア＝ハンガリー帝国が成立。「アウスグライヒ」（和協）と呼ばれるこの体制下で、ハンガリー王国内には独自の内閣や議会が置かれ、ハンガリーの影響力は強まりました。

19世紀末には資本主義が勃興し、民族主義が高揚。ブダペストはヨーロッパ有数の近代都市として発展しました。

2つの世界大戦

1914年の第一次世界大戦でオーストリア＝ハンガリー帝国は敗北。1918年にハンガリー人民共和国が独立しましたが、トランシルヴァニアなどをルーマニアやチェコスロバキアに占領されました。

1919年にはクン・ベーラ率いるハンガリー共産党が革命を起こし、ハンガリー・ソビエト共和国が成立しましたが、ルーマニアの介入とホルティ・ミクローシュの蜂起により崩壊しました。

1920年、ホルティはハンガリー王国の成立を宣言し、摂政として支配を行いました。トリアノン条約により、ハンガリーは領土の大半を失い、右傾化しました。ホルティはナチス・ドイツと協調し、領土回復を狙いましたが、1941年にユーゴスラビア侵攻と独ソ戦に参加しました。

ドイツの敗色が濃くなると、ホルティは単独講和に乗り出しましたが、1944年にドイツの支援を受けた矢十字党のクーデターが発生。矢十字党はユダヤ人の移送などドイツの政策に協力しましたが、1945年にソ連軍によりブダペストが陥落し、政権は崩壊しました。

ハンガリー人民共和国

第二次世界大戦後の1946年に王制は廃止され、ハンガリー共和国が成立。ソ連の影響下に置かれ、1949年にはハンガリー人民共和国となり、共産主義体制の一党独裁国家となりました。

ハンガリー動乱

1956年のフルシチョフによる「スターリン批判」後、ハンガリーでは大規模なデモが発生。政府はナジ・イムレを首相に就任させましたが、ソ連が介入し、多数の市民が殺害され、ナジも処刑されました。

グヤーシュ・コミュニズム

ハンガリー社会主義労働者党が樹立され、カーダール・ヤーノシュが首相となり、ソ連との友好を強調。1968年には新経済メカニズムと称する経済改革が行われ、市場経済が導入されました。この体制は「グヤーシュ・コミュニズム」と呼ばれ、他の東欧諸国に比べて経済状態は良好でしたが、徐々に停滞していきました。

共産主義政権の終焉

1980年代、ゴルバチョフのペレストロイカの影響で、ハンガリーでも民主化が進み、一党独裁制を放棄。1989年にはオーストリアとの間の「鉄のカーテン」を撤去し、東欧革命を促しました。

現在のハンガリー

1990年には複数政党による選挙が行われ、民主フォーラムが第1党となり社会主義政権に終止符が打たれました。1996年には経済協力開発機構、1999年に北大西洋条約機構、2004年にヨーロッパ連合に加盟しました。一方、2010年から政権を率いるヴィクトル・オルバーンは、親露・極右路線を推し進めています。

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