聖エウスタキウスの幻視

『聖エウスタキウスの幻視』は、イタリア初期ルネサンスの巨匠ピサネッロによるテンペラ画で、現在ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。制作年は特定されていませんが、1438年から1442年頃と推定されています。

この作品は、黄金伝説に基づき、聖エウスタキウスが狩猟中に牡鹿の角の間にキリストの磔刑像を見たという幻視を描いています。同様の伝説を持つ聖フベルトゥスとは異なり、この作品はピサネッロがヴェローナの教会で聖エウスタキウスを描いた事実から特定されています。この時期のイタリア美術では、聖フベルトゥスの描写は一般的ではありませんでした。

聖エウスタキウスは、金色のチュニックと青い頭飾りを身に着けた、当時の最高級の宮廷ファッションの猟師として描かれています。このことから、依頼者は宗教的な敬虔さだけでなく、貴族的な狩猟の娯楽や騎士道にも共感していたと考えられます。依頼者は特定されていませんが、ゴンザーガ家、フィリッポ・マリア・ヴィスコンティ、狩猟を愛したレオネッロ・デステ、ボルソ・デステなどが候補として挙げられています。聖人の横顔は、依頼者の肖像を表している可能性も指摘されています。

ピサネッロは、狩猟の場面を通して、動物や鳥を自然主義的かつ装飾的に描く卓越した技術を披露しています。動物たちは様々な尺度で描かれ、ネーデルラントのタペストリーのように、風景の中に散りばめられています。風景の構成は、ガストン・フービュス著の『狩猟の本』のような写本の彩色装飾に精通していたことを示唆しています。動物たちの素描には、見本帳が用いられたと考えられています。

絵画の前景にある空白の巻物の意味は不明です。文字が書かれていた形跡はありません。本来は、キリストの言葉を聖エウスタキウスに伝えるか、聖エウスタキウスの言葉を伝える意図があったのかもしれません。しかし、空白の巻物は、図像に対する言葉の過剰さを示す意図があったという説も提唱されており、当時のヒューマニストの間で議論されていた詩と芸術の優劣に関する議論を反映している可能性があります。

過去の歴史の中で、『聖エウスタキウスの幻視』は大幅に描き直され、修正が加えられています。本来は縦がもっと長かったとされ、上部が切断されています。黒い下塗りや孔雀石の使用により、風景は暗くなっており、チュニックや馬具の金箔には、さらに金箔が重ねられています。クマのような一部の動物は完全に描き直されています。しかし、聖人の帽子や顔は保存状態が良く、馬具や狩猟用角笛、拍車に見られる「パスティリア」という石膏の浅浮彫はオリジナルです。

本作は1895年にナショナル・ギャラリーによって購入され、「NG 1436」として登録され、現在55号室に展示されています。ピサネッロの卓越した技術と、当時の社会や文化背景を映し出すこの作品は、ルネサンス美術における重要な作品の一つとして、今日でも高く評価されています。

参考文献
Dunkerton, Jill (1991). Giotto to Durer: Early Renaissance Painting in The National Gallery: Early European Painting in the National Gallery. Yale University Press.
Gordon, Dillian (2001). Pisanello: Painter to the Renaissance Court. Yale University Press.

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