聖セバスティアヌス (ティツィアーノ、エルミタージュ美術館)

『聖セバスティアヌス』は、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1570年から1572年にかけて制作した油彩画です。画家が90歳に迫る最晩年の作品であり、古代ローマの親衛隊長であり、矢で射られて殉教した聖セバスティアヌスを描いています。この作品は、ティツィアーノの死後、『悔悛するマグダラのマリア』や『十字架を担うキリスト』などと共にアトリエに残され、1850年にサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に所蔵されました。

画面には、若い聖セバスティアヌスがキャンバス全体を占めるように描かれており、鑑賞者の前に記念碑のように立っています。彼は天を仰ぎ祈るような表情をしており、その顔と目、わずかに開いた口からは深い苦痛が伝わってきます。彼の身体には、あらゆる方向から矢が突き刺さっていますが、それでもなお、生命力が感じられます。絵画はほぼモノクロームで構成されており、その暗色は複雑な深みを持っています。厚塗りの技法によって、荒々しく量感のある表面が作り出され、重厚な大気の印象を与えています。

この作品は、19世紀末までエルミタージュ美術館の倉庫に眠っていましたが、現在ではティツィアーノの最晩年の傑作として高く評価されています。ミュンヘンのアルテ・ピナコテーク所蔵の『荊冠のキリスト』と同様に、混沌とした中から形態が次第に現れてくる過程を表現しています。筆のタッチである色斑が形態の形成単位となり、イメージ全体が同時に実現していく様子は、ポール・セザンヌの制作過程との共通点が指摘されています。

表現主義を思わせる激しく大胆な筆致で描かれた本作では、形態と空間が溶け合い、画面に近づいて見ると、物の形を判別するのが難しいほどです。かつて「色彩の錬金術師」と呼ばれたティツィアーノの華麗な色彩は、厚みのあるモノクロームの中に沈み込み、画面全体に深々とした悲劇的な感情が満ち溢れています。背景は、聖人の殉教という主題の悲劇を反響させ、増幅する役割を果たしており、通常の背景以上の意味を持っています。

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