聖バーソロミュー病院

聖バーソロミュー病院：ヨーロッパ最古の病院の歴史と魅力

ロンドン中心部、スミスフィールドに位置する聖バーソロミュー病院（正式名称：王立聖バーソロミュー病院、略称：Barts）は、1123年創立という歴史を誇る、ヨーロッパ最古の病院です。800年以上にわたる歴史の中で、医学の発展に大きく貢献し、数々の著名な医師や研究者を輩出しました。現在もBarts Health NHS Trustの一角を担い、現代医療の中枢として重要な役割を果たしています。

歴史：王室の庇護と医学の進歩

1123年、ヘンリー1世の寵臣、ラーヘレによって創設されたバーツは、当初は貧しい人々のための施療院でした。ヘンリー8世による修道院解散の影響を受けながらも、1546年にはシティ・オブ・ロンドン共同体から認可を受け、再興を果たします。初代病院長にはヘンリー8世の侍医を務めたトーマス・ヴィカリーが就任しました。

バーツの歴史は、医学の進歩の歴史でもあります。17世紀にはウィリアム・ハーヴィーが血液循環説に関する研究を行い、18世紀にはパーシヴァル・ポットとジョン・アバーネシーが近代外科学の礎を築きました。19世紀にはベッドフォード・フェンウィック夫人が看護職の発展に貢献するなど、数々の革新的な研究や医療活動が行われてきました。1839年から1872年の死亡率報告書によると、術後感染や結核が主要な死因であったことがわかります。1948年の国民保健サービス設立を機に、正式名称が「聖バーソロミュー病院」となりました。

建物の歴史と建築的価値

創設以来、同じ場所に建ち続けるバーツは、英国で現在も医療提供を行う最古の医療施設です。建物の多くは18世紀に建てられたもので、歴史的、建築的にも高い価値を持っています。病院のメインエントランスである「ヘンリー8世・エントランス」には、ロンドンで現存する唯一のヘンリー8世の石像があります。1730年代にジェームズ・ギブスによって設計されたメイン広場は、大広間を含む3つの区画が現存しています。北ウィングにはウィリアム・ホガースの壁画があり、歴史的な雰囲気を醸し出しています。1859年には、広場の中心に噴水と小さな庭が造られました。

バーツはロンドン大火やロンドン大空襲を生き抜き、その歴史を物語る多くの建造物が残っています。附属博物館では、中世の古文書や、ホガースの絵画を含む貴重なコレクションを見学できます。特に、ホガースが描いた「ベセスダのプール」と「善きサマリア人」は、医療に深く関わる作品として注目されています。

病院の大広間はバロック様式の吹き抜けで、壁には多くの寄付者名と寄付額が記されたプラークが飾られています。また、病院の敷地内には、15世紀に建てられた塔を持つ聖バーソロミュー・ザ・レス教会も現存し、病院と教会の歴史的なつながりを示しています。

閉鎖の危機と再建

1993年のトムリンソン・レビューで病院過多とされたバーツは、閉鎖の危機に直面しました。しかし、「Save Barts Campaign」による地域住民や関係者の努力により、多くの部門が存続することとなりました。事故・救急救命部は王立ロンドン病院と統合されましたが、がん治療や心臓治療の拠点として発展を続けました。現在もクイーン・メアリー・ウィングの取り壊しなどの改築を行いながら、最新鋭の医療を提供しています。

医学教育と著名な卒業生

バーツは医学教育においても重要な役割を果たしました。1843年に設立された聖バーソロミュー病院メディカル・カレッジは、1995年に王立ロンドン病院のカレッジと合併してクイーン・メアリー・ユニバーシティ・オブ・ロンドンを形成しました。現在も、バーツおよびロンドン医科歯科学校として、優秀な人材を育成し続けています。

バーツには、ジョン・アバーネシー、ウィリアム・ハーヴィー、エリザベス・ブラックウェルなど、歴史に名を残す多くの著名な卒業生がいます。架空の人物では、シャーロック・ホームズシリーズのワトスン医師がバーツの卒業生として登場することで有名です。バーツの化学実験室は、ホームズとワトスンが初めて出会った場所として知られ、ブルー・プラークが設置されています。

バーツ博物館

病院の歴史や医療の発展を展示するバーツ博物館は、歴史的な外科器具や絵画、古文書などを所蔵しています。無料で入場でき、ロンドン・ミュージアムズ・オブ・ヘルス・アンド・メディスンの一員となっています。

バーツの未来

800年以上の歴史を持つ聖バーソロミュー病院は、現代医療の中心地として、これからも医療と教育に貢献し続けるでしょう。その歴史的建造物や、医学史に刻まれた功績は、未来へと受け継がれていきます。

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