聖パトリックの青

聖パトリックの青：アイルランドの象徴色を読み解く

「聖パトリックの青」という言葉は、アイルランドを象徴する複数の青系の色合いを指します。特に、英国の慣習では聖パトリック勲章と関連付けられたスカイブルーの色調を意味することが一般的です。一方、アイルランド共和国では、より濃い青色を指す場合もあります。現在、アイルランドのナショナルカラーとしては緑色が広く用いられていますが、「聖パトリックの青」も依然として様々なシンボルで見ることができます。

歴史的背景

起源

アイルランド神話において、アイルランドの君主は青いローブをまとった女性として描かれていました。また、ミゼの旗は青地であり、そのデザインはアイルランドの紋章にも用いられています。

ヘンリー8世が自身をアイルランド王国の王と宣言した際、紋章には青地にハープが描かれました。このデザインは、現在もイギリス王旗の左下に見ることができます。

聖パトリック勲章

1783年にアイルランド王国の最高勲章として聖パトリック勲章が設立された際、その大綬の色は、既存のガーター勲章のダークブルーやシッスル勲章の緑とは異なる色にする必要がありました。オレンジ色も候補に挙がりましたが、政治的な偏りを考慮し、アイルランドの紋章に使われている淡い青色が採用されました。騎士団の騎士や役職者は、「空色」のマントとリボン、「青」のラインが入った帽子、「青」のバッジを身につけていました。

「聖パトリックの青」という名称は一般的でしたが、騎士団によって公式に使用されることはありませんでした。実際に使用された色調は時代によって異なり、緑がかった空色が用いられたこともありました。騎士団最後の生存者であったグロスター公ヘンリーの死去後も、騎士団は名目上は存続しています。

ナショナルカラーとしての議論

聖パトリック勲章設立以前から青色がアイルランドのナショナルカラーであったのか、聖パトリック自身と関連付けられていたのかについては議論があります。シェーン・レスリーは、聖パトリックの青緑を「ケルト人が使用したウォード染めの記憶」であると推測しました。コンスタンス・マルケビッチは、青を「アイルランドの古の色」とみなし、アイルランド市民軍の記章に取り入れました。一方、フランシス・ジョセフ・ビッガーは、聖パトリックの青を「偽の色」と批判しました。

近年では、色の歴史的信憑性を支持する研究者もいれば、疑問を呈する研究者もいます。パリのアイリッシュ・カレッジでは、チャペルの壁に聖パトリックの青を見ることができます。聖パトリックと緑色の関係については、1681年に聖パトリックの祝日に人々が帽子に緑色のリボンの十字をつけていたという記録があります。

過去の使用例

1868年にエドワード皇太子がアイルランドを訪問した際、妻のアレクサンドラは「聖パトリックの青」のドレスを着用しました。1886年には、アイルランド総督主催の園遊会でアイルランドをテーマにした服装規定が設けられ、「聖パトリックの青」のアイリッシュポプリンネクタイが推奨されました。

1912年の宮内長官に対する服装規定では、アイルランド総督の家族は国王がアイルランドに滞在する際、聖パトリックの青を着用することとされていました。

サッカーアイルランド代表は、1882年から1931年まで聖パトリックの青のジャージを着用していましたが、その後緑色に変更しました。1924年のオリンピックでは、アイルランド自由国のチームがブルガリア戦で聖パトリックの青のユニフォームを着用しました。これは、ブルガリアのユニフォームがアイルランド代表が通常使用する緑色だったためです。

1930年代、ACA（Army Comrades Association）の聖パトリックの青色のシャツは、「ブルーシャツ」というニックネームをこの組織にもたらしました。これは、敵対者リパブリカンと結び付けられる緑色への拒絶を示すものでもありました。ブルーシャツの旗は、白地の聖パトリック旗を青地にしたものでした。W・T・コスグレーヴは、この色について「完璧であり、伝統的であり、私たちの歴史と国民的な一致をし、最も尊ばれそして崇拝されてきたわれらの守護聖人の記憶と密接に結びついている」と述べています。

アイルランド陸軍軍楽隊の最初の制服は聖パトリックの青でしたが、すぐにネイビーに変更されました。1932年から48年まで存在した騎馬護衛隊は、「青色騎兵隊」と呼ばれていましたが、その色は聖パトリックの青であると描写されることがありました。1970年から導入されたエアリンガスの客室乗務員と地上勤務員の制服は、緑と聖パトリックの青を組み合わせたもので、アイリッシュ・タイムズはこれを「きらめく新しい色」と評しました。

現在の使用例

アイルランドの国章および大統領旗は、聖パトリックの青（#23297A）を背景に、銀の弦を張った金のハープが描かれています。大統領専用車の色は「聖パトリックの青であり、一見すると黒に見えるネイビーブルー」です。前大統領メアリー・マッカリースは、競走馬Suailceを所有しており、大統領色である「聖パトリックの青と金」の勝負服で出走させていました。

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの公式スポーツカラーは「聖パトリックの青とサフランイエロー」であり、ダブリン県のゲーリック体育協会の地域カラーにもライトブルーが含まれています。アイルランド国立大学のアカデミックドレスは聖パトリックの青であり、獣医学分野ではより濃い青である「ケルトの青」が使用されます。アイルランド王立外科医学院のアカデミックドレスも聖パトリックの青です。ダブリンのトリニティ・カレッジのフェンシング部は、そのアジュールの色を「聖パトリックの青」と定めています。

聖パトリックの青のハックルは、イギリス陸軍のアイルランド部隊であるアイリッシュガーズのベアスキンや、ロンドン・アイリッシュライフルズのコウビーンに付けられています。ダブリンの聖パトリック大聖堂は、聖歌隊のカソックや聖職者用カラーを通じて、聖パトリック騎士団と聖パトリックの青との歴史的関連性を記念しています。

アイルランド共和国と北アイルランド双方のスポーツチームを統合する目的で、国境を越えたアイルランド旗が必要となる場合があります。背景に聖パトリックの青を持つ4つのアイルランドの地方の紋章は、この目的に使用されることがあります。

聖パトリックの青は、アイルランドの歴史と文化に深く根ざした色であり、その象徴性は時代とともに変化しながらも、今日まで受け継がれています。

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