聖フランシスコ・ザビエルの奇蹟 (ルーベンス)

『聖フランシスコ・ザビエルの奇蹟』は、フランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1617年または1618年に制作した油彩の大祭壇画です。アントウェルペンのイエズス会教会のために委嘱され、後にウィーンの美術史美術館に所蔵されました。この作品は、聖フランシスコ・ザビエルがアジアでの伝道活動中に起こしたとされる様々な奇蹟を描いており、その背景にはヒンドゥー教の偶像やアジア、アフリカの人々が描かれています。ルーベンスは、本作と対になる『聖イグナチオ・デ・ロヨラの奇蹟』も描いています。

歴史的背景

1620年、ルーベンスはイエズス会との契約により、教会のために39点の天井画と2点の祭壇画を制作することになりました。この2点の祭壇画が本作と『聖イグナチオ・デ・ロヨラの奇蹟』です。契約時には両作品はすでに完成しており、本作はフランシスコ・ザビエルの列聖前に完成しています。1773年に教会が火事で閉鎖された後、両作品はオーストリアのマリア・テレジア女帝に買い取られ、現在はウィーンの美術史美術館に所蔵されています。

作品の特徴

画面中央には、青年僧を従えて壇上に立つ聖フランシスコ・ザビエルが描かれています。ルーベンスは、古代ローマ美術の形式を借りて、ザビエルの演説を表現しました。画面全体では、ザビエルが行ったとされる様々な奇蹟が組み合わされています。左側には、母親に抱かれて水を吐き出す赤ん坊、死から蘇った人々が描かれています。また、ルーベンスの『最後の審判』に登場する人物に似た男も描かれています。上部左側には、王冠を被り、身体の中央に口を開けたヒンドゥー教の偶像が転落する様子が描かれています。右側には、腕を伸ばす盲目の男が描かれています。ルーベンスは、祭壇画の制作前に多くの人物習作を行い、特にザビエルの身振りやポーズに工夫を凝らしました。

対抗宗教改革との関連

ルーベンスの絵画は、対抗宗教改革の影響を受け、カトリックの教義を強調した作品が多く見られます。本作もその一つで、ダイナミックな動き、曖昧な輪郭線、多様な色彩が特徴です。ザビエルが奇蹟を起こし、人々の信仰を回復させる能力が強調されており、ザビエルの列聖審査にも利用されました。死者を蘇らせる彼の力は、彼を天上の存在に近づけるものと捉えられました。

解釈

この作品は、ザビエルのアジアでの伝道活動に基づいているとされています。ルーベンスは、テオドーレ・デ・ブライからアジアの地理や歴史に関する情報を得て、ヨーロッパ文化と組み合わせた場面を描きました。水を吐き出す赤ん坊は、ザビエルがインドで溺れた赤ん坊を蘇らせた奇蹟を象徴しています。中央には韓国の装束を着た男たちがおり、彼らは当初、ザビエルの能力を疑っていましたが、最終的にはその力を認めることになります。

ヒンドゥー教の偶像

画面上部左側の偶像は、ヒンドゥー教の神を象徴しており、ヨーロッパでは悪魔的な存在として解釈されていました。ルーベンスは、インドの彫像や旅行記から得た情報に基づいて偶像を描き、その口は悪魔を象徴する表現として用いられました。偶像の位置とザビエルの身振りは、ザビエルが偶像を攻撃するヴィジョンを示し、人々にカトリックに改宗し、異教の信仰を捨てるよう促す様子を描いています。

ペストの犠牲者

画面下部左側の人物は、腺ペストの患者であるという説があります。ルーベンスは、この病に罹った経験はないものの、ペストに関する論文やティントレットの作品から影響を受けた可能性があります。腺ペストは、人物の露わになった腕によって象徴的に表現されているという説もあります。

中国人

画面中央の韓国の装束を着た人物は、ルーベンスの素描にも登場します。当初はトルコの装束が描かれる予定でしたが、イエズス会士たちの要望により、アジアでの活動を表現するために様々な衣装が描かれました。これらの衣装は、異教徒を原始的な地位に貶める一方で、カトリックの優位性を象徴するものでした。近年、この人物は韓国人ではなく、明時代の中国人カトリック教徒イポーンであるという説が有力になっています。衣装の類似性から、混同が生じていたのです。

本作は、ルーベンスの卓越した画力と宗教的なテーマが見事に融合した作品であり、バロック美術の傑作として高く評価されています。

もう一度検索