聖ペテロと教皇アレクサンデル6世、ペーザロ司教

『聖ペテロと教皇アレクサンデル6世、ペーザロ司教』

この絵画は、イタリア・ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1503年から1512年にかけて制作した油彩作品です。ヴェネツィアの貴族であるペーザロ家出身で、キプロス島のパフォス司教であったヤコポ・ペーザロが、1502年8月にヴェネツィアがオスマン帝国との海戦に勝利したことを記念し、この作品を発注しました。ティツィアーノの初期の作品の一つであり、現在ではベルギーのアントウェルペン王立美術館に所蔵されています。

制作の背景

1499年から1503年にかけての第二次オスマン・ヴェネツィア戦争において、ヴェネツィアは当初、オスマン帝国に連敗を喫していました。しかし、1502年6月のサンタ・マウラの海戦で、パフォス司教ヤコポ・ペーザロが指揮を執り、ヴェネツィアはオスマン帝国に対して稀有な勝利を収めます。この勝利を記念し、ヤコポ・ペーザロは、教皇アレクサンデル6世への感謝の意を示すために、この絵画を発注しました。作品は宗教的な外観を持ちながらも、教会向けではなく、海戦の勝利と教皇の後援に対する感謝を表すものでした。

作品の詳細

画面左側には、玉座に座る聖ペテロが描かれています。彼は左手に書物を持ち、足元にはキリストから授与された天国の鍵が置かれています。玉座は大きな石盤でできており、側面には浮き彫りが施されています。教皇アレクサンデル6世は、ひざまずくヤコポ・ペーザロ司教を聖ペテロに紹介しています。ペーザロ司教は、自身の紋章と教皇の紋章が入った旗を掲げています。玉座の浮き彫りは、ヴィーナスとキューピッドを主なモチーフとしており、その意味は完全には解明されていませんが、パフォスの神殿を暗示しているとも、ペーザロ司教の神への愛と勝利の寓意であるとも解釈されています。

画面の背景には、海戦の様子が描かれています。戦うガレー船が海上を移動しており、また、教皇の右側にはレフカダまたはパフォスの都市が見えます。これらの細部は、1502年の海戦の勝利を象徴しています。この構図は、守護聖人を通して聖母マリアに寄進者が奉納品を捧げるという、ヴェネツィア派の典型的な様式を踏襲しています。美術館の見解では、構図はジョヴァンニ・ベッリーニがデザインし、制作をティツィアーノに委ねた可能性を示唆しています。聖ペテロの姿はベッリーニのスタイルを強く想起させます。教皇の描写は、メダルや図像からの模倣であり、司教よりも生々しさに欠ける外観をしています。

画面中央下部には銘板が後から追加され、制作者と主題が曖昧な言葉で説明されています。

制作年代と来歴

制作年代は1506年から1511年とされてきましたが、1503年から1506年の制作であるという説もあります。ティツィアーノの生年については諸説ありますが、1503年説は彼が13歳か14歳であったことを意味し、信憑性は低いとされています。近年の研究では、2003年直前の修復により、1510年から1511年頃に発展したティツィアーノの記念碑的な様式とより密接に関連していることが確認されています。教皇アレクサンデル6世が1503年に亡くなり、公式な場での表現が禁止されたことから、1503年以前の制作とする説もありましたが、ペーザロ司教がヴェネツィアに帰国したのは1506年であり、図像の禁止がヴェネツィアに影響を及ぼしていた場合、カンブレー同盟戦争でヴェネツィアと教皇庁が対立していた1508年から1510年にこのような作品が発注されることはなかったでしょう。ペーザロ司教はアレクサンデル6世の記憶に忠実であり続け、1542年の遺言では、教皇の魂のために祈りを捧げるよう指示しています。

絵画は17世紀初頭までペーザロ家が所有しており、その後、イングランド国王チャールズ1世のコレクションを経て、スペイン王室コレクション、オランダ国王ウィレム1世のコレクションへと渡り、最終的に美術館に寄贈されました。この絵画は、ティツィアーノの初期の傑作であるとともに、当時の歴史的背景と宗教観を映し出す貴重な作品です。

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