聖ペテロへの天国の鍵の授与 (ペルジーノ)

『聖ペテロへの天国の鍵の授与』（せいペテロへのてんごくのかぎのじゅよ、伊: Consegna delle chiavi）は、イタリア・ルネサンス期の画家ピエトロ・ペルジーノが1481年から1482年にかけて制作したフレスコ画です。この作品は、ローマのヴァチカン宮殿内にあるシスティーナ[[礼拝堂]]の壁画の一つとして、その壮大な空間を彩っています。

歴史的背景

作品の制作は、ペルジーノが1480年にローマの旧サンピエトロ大聖堂の礼拝堂を装飾していた時期に遡ります。当時の教皇シクストゥス4世は、ペルジーノの才能に深く感銘を受け、新たに建設されたシスティーナ[[礼拝堂]]の装飾も彼に依頼することを決定しました。当初、このプロジェクトはペルジーノ単独で進められる予定でしたが、作品の規模が非常に大きかったため、ボッティチェッリやギルランダイオといったフィレンツェの画家たちも制作に参加することになりました。

また、制作中にナポリのアルフォンソ2世がヴァチカンを訪問した際、その姿が前景の人物群の左端に描き加えられるという出来事もありました。さらに、画面全体のバランスを考慮し、聖ペテロの頭上には使徒たちが追加されることになりました。

作品の概要

このフレスコ画は、礼拝堂の北側の壁面に描かれた一連のイエス・キリストの物語の一部であり、マタイによる福音書16章に記された、イエスが聖ペテロに天国の鍵を授ける場面を描いています。この鍵は、罪を許す力、神の言葉を伝える力、そして天国への扉を開く力を象徴しています。画面構成は、主要人物が前景に集中し、水平線の下に2列に並んで描かれています。ひざまずく聖ペテロに金の鍵と銀の鍵を渡すキリストを中心に、他の使徒たちや同時代の人々の肖像が周囲を囲みます。この中には、ペルジーノ自身の自画像も含まれているとされています。

背景には、レオン・バッティスタ・アルベルティの著作『建築について』に登場する理想的な教会を模した神殿が描かれています。その両側には、シクストゥス4世とソロモンの名前が刻まれた凱旋門が配され、ソロモン神殿を想起させるポルティコ（列柱屋根）が設けられています。さらに、中景にはキリストの生涯を描いた「貢の銭」と「キリストの石打ち」の場面が描かれています。

様式の特徴

人物像の様式には、アンドレア・デル・ヴェロッキオの影響が見られます。特に、複雑な襞が施された衣服や、美しい顔立ち、長く流れる髪、優雅な姿勢は、ヴェロッキオの彫刻作品を彷彿とさせます。登場人物のポーズは、いくつかの基本的なパターンが繰り返し用いられ、左右対称に配置されていることが多く、同じ下絵を使用していることを示唆しています。人物は、地面にしっかりと立ち、優美で洗練された印象を与えます。頭部は身体に比べて小さく、顔の描写は細部にまで注意が払われ、繊細に純化されています。

背景の建築物は、建築家が制作したプロジェクトに基づいていますが、ペルジーノの描く建築物は、まるで木製模型のように正確な描写です。アーチ状の建物は、物語が展開される舞台として機能しています。また、ペルジーノは風景描写にも大きな貢献を果たしています。地平線まで広がる無限の空間は、同時代の他の作品と比較しても際立って力強く、遠くには青みがかった灰色の丘が、そして雲のある空を背景に羽根のような木々が描かれています。この風景描写は、後の画家たち、特にラファエロに大きな影響を与えました。

中央の建物は、ペルジーノの他の作品や、弟子のピントゥリッキオの作品にも見られるもので、ペルジーノの建築に対する興味とこだわりを示すものです。

伝説

このフレスコ画は、教皇選出のコンクラーヴェにおいて、吉兆をもたらすと信じられていました。迷信によれば、このフレスコ画の下の独房に収容された枢機卿は、選出される可能性が高いとされていました。実際、教皇クレメンス7世、教皇ユリウス2世、教皇パウルス3世の3人の教皇が、コンクラーヴェの際にこのフレスコ画の下に収容されていたという記録が残っています。

関連作品

ペルジーノの『聖母の結婚』や、弟子であるピントゥリッキオの作品にも、このフレスコ画と同様の建築様式が見られます。

参考文献

* Garibaldi, Vittoria (2004). “Perugino”. Pittori del Rinascimento. Florence: Scala

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