聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使

『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』

サンドロ・ボッティチェッリが1468年頃に制作したテンペラ画『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』は、盛期ルネサンスの巨匠の初期作品として知られています。この絵画には、彼の師であるフィリッポ・リッピとアンドレア・デル・ヴェロッキオの影響が色濃く反映されており、初期のボッティチェッリのスタイルを理解する上で重要な作品です。

作品の特徴

この作品は、ボッティチェッリがフィリッポ・リッピの工房を離れた後、ヴェロッキオの工房で学んだ時期に描かれたとされています。そのため、リッピの優美な線描と、ヴェロッキオの写実的な表現が融合した、独特のスタイルが見られます。

画面構成は、中央に聖母マリアが幼子イエスを抱き、左側に二人の天使、右側に洗礼者聖ヨハネが配されています。天使の一人は幼子イエスを聖母マリアに差し出し、聖母マリアは幼子を膝の上に抱きかかえ、幼子は聖母に手を伸ばしています。この幼子イエスの仕草は、ヴェロッキオの聖母子画からの影響が見られます。一方、聖母マリアのマントの縁飾りや透明なヴェールは、リッピの影響を示しています。洗礼者聖ヨハネは、右手を胸に当て、左手に十字架を持ち、聖母の背後に立っています。聖母が座る赤いセラフィムの形をした椅子も、この作品の特徴の一つです。背景は、当時のボッティチェッリの聖母子画によく見られる庭園や風景の描写はなく、青空のみが描かれています。

登場人物たちの表情も注目すべき点です。聖母マリアと洗礼者聖ヨハネは伏し目がちで、物思いに耽っているような表情をしています。対照的に、幼子イエスは天を仰ぎ見ています。この視線や背景の青空、赤いセラフィムの椅子は、キリストの未来、つまり天国における彼の姿を暗示していると考えられています。天使のうち一人は聖母マリアを見上げ、もう一人の天使は鑑賞者の方を見ており、それぞれ異なる視点からこの場面を捉えていることが分かります。

この絵画はサイズが小さいため、個人的な礼拝のために依頼されたものと考えられていますが、依頼者や設置場所は不明です。

制作と評価

美術史家ヴィルヘルム・フォン・ボーデによってボッティチェッリの作品と鑑定されました。ハーバート・ホーンとアドルフォ・ヴェントゥーリを除くほとんどの研究者によってこの鑑定は支持されています。1979年には貴石博物館によって修復され、1980年代には後代の修正が除去され、本来の品質が再評価されました。

来歴

この絵画はもともとフィレンツェ最古の病院であるサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院が所有していました。病院が絵画を入手した経緯は不明ですが、病院長が患者の希望となるような絵画をボッティチェッリに依頼したか、裕福な家族が病室を飾るために制作したものを病院に寄贈した可能性があります。1900年までサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院にあったこの絵画は、その後ウフィツィ美術館に収蔵され、1919年にアカデミア美術館に移管されました。直近の保存作業は2011年に行われました。

まとめ

『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』は、ボッティチェッリの初期の作風を知る上で重要な作品です。師の影響を受けつつも、独自の表現を確立しようとする彼の意欲が感じられます。現在では、フィレンツェのアカデミア美術館でその美しい姿を見ることができます。

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
バルバラ・ダイムリング『ボッティチェッリ（ニューベーシック・アートシリーズ）』 タッシェン（2001年）
* 『ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美』ルドヴィカ・セブレゴンディ、木島俊介監修、Bunkamura、NHK、毎日新聞社（2015年）

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