聖衣剥奪

エル・グレコ作「聖衣剥奪」

エル・グレコの代表作の一つである「聖衣剥奪」（西: El Expolio）は、1579年にトレド大聖堂の祭壇画として完成しました。この作品は、聖書に記されたキリストの受難の場面を描いており、その独特な構図と表現は、当時大きな議論を呼びました。現在はトレド大聖堂の聖具室に展示されています。

制作の背景

1577年、エル・グレコはトレド大聖堂の祭具室の祭壇画制作を依頼されました。この依頼は、グレコのローマ時代の友人ルイス・デ・カスティーリャの父、ディエゴ・デ・カスティーリャが当時大聖堂の司祭長を務めていたことが縁となり実現したと言われています。制作は1579年6月に完了しました。

主題と表現

本作の主題は、マルコによる福音書16章16-19節に記されている、カルヴァリオの丘でのキリストの受難の場面です。兵士たちがキリストの聖衣を剥ぎ取る瞬間を描いています。「聖衣剥奪」は、当時としては珍しい主題でした。画面左下には、聖書には記述のない聖母マリア、マグダラのマリア、小ヤコブの母が描かれており、この点が異端的とみなされました。この描写は、13世紀のフランシスコ会士聖ボナヴェントゥラの著作『キリスト受難に関する考察』を参考にしたと考えられています。

画面構成は、平面的で上下方向に積み上げるマニエリスムの特徴が見られます。統一的な視点のない空間はビザンチンの影響が指摘されています。さらに、視点移動を伴う動的な空間表現や、バロックを先取りするようなダイナミックな身体表現も取り入れられています。傷一つないキリストの聖衣が兵士たちの手によって引き裂かれる直前の緊張感は、視覚的に巧みに表現されています。

訴訟問題

「聖衣剥奪」は、その独創的な画面構成が原因で、依頼主である大聖堂参事会から批判を受けました。その結果、グレコが当初要求した報酬は大幅に減額されました。さらに、キリストを取り巻く群衆の頭がキリストよりも上に描かれている点も問題視されました。

当時のトレド大聖堂は、美術家に対する査定制度や、作品の監督・構図に対する認可権を持っており、事実上表現を統制する力がありました。グレコは訴訟を起こしましたが敗訴し、作品の引き渡しを拒否。最終的に、訴訟調停役アレホ・デ・モントーヤによる評価を受け、大聖堂側が当初支払おうとした金額よりもやや高い金額を受け取ることで決着しました。この事件以降も、グレコは報酬を巡って注文主と争うことがありました。

関連作品

(関連作品については、記載された情報からは特定できませんでした。)

脚注

注釈

(注釈はありません)

出典

* Clark Kenneth, 高階秀爾「絵画の魅力を求めて-7-エル・グレコ《聖衣剥奪》」『SD』第131号、鹿島出版会、1975年7月、p79-86、ISSN 05630991、NAID 40000039460。

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