職務執行内閣

職務執行内閣とは

職務執行内閣とは、日本国憲法第71条に基づき、内閣総辞職後から新たな内閣総理大臣が任命されるまでの間、引き続き職務を行う従前の内閣を指す通称です。行政の継続性を維持するために設けられた制度であり、内閣総辞職後も一定の期間、国の運営を担います。

概要

憲法71条により、内閣は総辞職後も新首相任命まで職務を継続します。これは行政の継続性確保の観点から認められていますが、総辞職後の内閣であるため、その職務範囲には制約があります。

職務執行内閣の最後の職務は、国会の指名に基づき、天皇が任命する新内閣総理大臣の官記に、憲法3条に基づき助言と承認を与えることです。新首相任命により、旧内閣はその地位を完全に失います。

内閣総辞職との関係

内閣が総辞職する状況は、主に以下の3つです。

1. 内閣不信任決議の可決または内閣信任決議の否決: 衆議院で内閣不信任決議が可決、または内閣信任決議が否決され、10日以内に衆議院が解散されない場合（憲法69条）。ただし、衆議院を解散した場合も、総選挙後の特別国会召集時に内閣は総辞職する必要があります（憲法70条）。
2. 内閣総理大臣の欠缺: 総理大臣が辞任または死亡した場合（憲法70条）。総理大臣の辞任も「欠缺」に含まれると解釈されています。
3. 衆議院議員総選挙後の特別国会召集: 総選挙後、最初に国会が召集されたとき（憲法70条）。これは、国民の信任を改めて得るという趣旨に基づきます。

内閣総理大臣の辞職が「内閣総理大臣が欠けたとき」（日本国憲法第70条）に含まれるか否かについては見解が分かれるものの、およそ内閣が総辞職した場合には新たに内閣総理大臣が任命されるまで従前の内閣が引き続きその職務を行うことになると解されています。

内閣総理大臣の死亡については日本国憲法第70条の「内閣総理大臣が欠けたとき」に含まれると解されています。

先例

1980年5月、大平正芳首相の急逝後、伊東正義官房長官が首相臨時代理となり、内閣総辞職。その後、鈴木善幸首相が就任するまでの36日間、職務執行内閣が存続しました。

新内閣の組閣と職務執行内閣

通常、内閣総辞職は首相指名選挙の直前に行われ、職務執行内閣の期間は短いですが、親任式の遅れにより数日間職務を行った例もあります。

細川内閣: 1994年4月25日に総辞職後、羽田孜首相指名。親任式までの間、名古屋空港の中華航空機事故に対応。
鳩山由紀夫内閣: 2010年6月4日総辞職、菅直人首相指名。天皇の静養により親任式が遅れ、数日間職務を執行。
菅直人内閣: 2011年8月30日総辞職、野田佳彦首相指名。9月1日の防災訓練が最後の主な業務となりました。

職務の範囲と限界

職務執行内閣は、総辞職後の内閣であるため、その職務範囲には限界があります。学説では、政治的な限界はあるものの法的限界はないとする説、必要最小限の事務処理にとどまるとする説などがあります。しかし、実際には、首相指名後すぐに親任式となることが多く、行動の余地は限られています。

職務執行内閣は、あくまで新内閣が発足するまでのつなぎ役であり、行政の継続性を維持するための重要な役割を担っています。

関連項目

内閣総辞職
特別会
内閣総理大臣指名選挙
予算管理内閣
選挙管理内閣

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