職務専念義務

職務専念義務とは、公務員がその職務を遂行する上で負うべき最も基本的な義務の一つです。これは、公務員が自己の職務に心を尽くし、全力で取り組まなければならないという責務を定めたものです。

義務の根拠と内容

この義務は、国家公務員法や地方公務員法といった公務員の服務に関する主要な法律に明確に規定されています。

国家公務員法第96条および地方公務員法第30条では、公務員の服務の根本原則として、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、かつ職務の遂行にあたっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と謳われています。これは、公務員が特定の個人や組織ではなく、広く国民全体の利益のために奉仕する立場であることを明確に示しており、そのために職務に全力で取り組む必要があることを義務付けています。

さらに、国家公務員法第101条第1項前段や地方公務員法第35条では、この義務をより具体的に規定しています。これらの条文によれば、公務員は法律や命令、あるいは条例に特別な定めがある場合を除き、その勤務時間中、職責遂行のために時間と注意力の全てを用い、その属する政府や地方公共団体が担当すべき職務にのみ従事しなければならないとされています。これにより、公務員は勤務時間中は他の活動を行わず、自身の公務に集中することが法的に求められているのです。

一般職公務員のみならず、特別職の公務員にも同様の義務が課せられています。例えば、自衛隊法第60条では、隊員に対して、法令に別段の定めがない限り、勤務時間及び職務上の注意力の全てを職務遂行のために用いることを義務付けています。外務公務員や裁判所職員にも国家公務員法の規定が準用され、職務専念義務が適用されます。また、国会職員法第23条は、本属長の許可なく安易に職務を離れることを禁じており、これも勤務時間中の職務専念を求める規定と言えます。

職務専念義務の免除（職専免）

原則として勤務時間中の職務専念が求められますが、法律や条例に「特別な定め」がある場合には、この義務が免除されることがあります。これを一般に「職務専念義務免除」、略して「職専免」または「職免」と呼びます。

地方公務員法第35条の「特別な定め」に基づく免除事由としては、多岐にわたるケースが存在します。主な例としては以下のようなものが挙げられます。

法律に基づく例
休職や停職の期間中（地方公務員法第27条など）
選挙権その他公民としての権利を行使する時間（労働基準法第7条）
年次有給休暇の取得時（労働基準法第39条）
産前産後休暇、育児休暇、生理休暇などの取得時（労働基準法第12条など）
教育公務員が行う校外研修や、許可を得た兼業・兼職（教育公務員特例法第17条・22条）
育児休業や部分休業の取得時（育児休業法）
災害救助活動への従事や協力（災害救助法）

条例に基づく例
各地方公共団体の勤務時間や休暇に関する条例で定められた休日、年次有給休暇（条例）、年末年始の休日、夏季休暇、その他の特別休暇の取得時
職員の服務に関する条例に基づき、公式な研修を受ける場合、福利厚生に関する計画の実施に参加する場合、その他任命権者が職務遂行上必要または適当と認めた場合
その他の条例で定められた、職務に関連する講習会や講演会への参加、あるいは資格試験や競争試験の受験など

特に、県費負担教職員の場合、その勤務条件の一つである職務専念義務の免除事由は都道府県の条例で定められています（地方教育行政の組織及び運営に関する法律第42条）。しかし、県費負担教職員の服務監督権は市町村教育委員会にあるため（同法第43条）、実際の職専免の承認は市町村教育委員会が行うという特殊な運用がなされています。

営利企業等への従事制限

職務専念義務と関連して、公務員には営利を目的とする事業への従事や、会社その他の団体の役員等との兼職について制限が課せられています。

これは、公務員が国民全体の奉仕者として公平・公正に職務を遂行するため、特定の営利活動に関わることでその職務の公平性が損なわれたり、公務員としての地位を利用して不当な利益を得たりする事態を防ぐためです。また、こうした活動が公務員の本質に反し、勤務時間内外を問わず職務専念義務とも矛盾する可能性があるという観点からも重要視されています。

地方公務員法第38条では、任命権者の許可がなければ、営利企業に従事することや、報酬を得て事業若しくは事務に従事することができないと規定しています。ただし、全体の奉仕者という本質に反せず、職務専念義務に矛盾せず、かつ法の精神に反しないと認められる場合には、任命権者の許可を得て従事することが認められることがあります。

許可を与えるかどうかの判断基準は、各自治体の人事委員会規則や、教職員の場合は教育公務員特例法第17条に定められています。主な基準は以下の通りです。

兼業する業務が、職員の現在の職務遂行に具体的な支障を及ぼす恐れがないこと。
職員が従事しようとする事業や団体の地位と、職員の占めている職との間に、特別な利害関係が存在せず、また将来的に発生する恐れもないこと。
* 兼業する業務の性質が、公務員の身分にふさわしいものであり、品位を損なうような性質のものでないこと。

これらの基準に照らし、公務の遂行に悪影響がないと判断された場合に限り、兼業が認められる可能性があります。

まとめ

職務専念義務は、公務員がその役割を適切に果たす上で不可欠な規範です。国民全体の奉仕者として、限られた公務時間を最大限に活用し、職務の遂行に全力を尽くすことが求められます。同時に、公平性の確保という観点から兼業が制限される一方、特定の事由においては、国民としての権利行使や公務員としての職務遂行に必要な活動のために、この義務が免除される仕組みも設けられています。これらの制度は、公務員制度全体の信頼性と効率性を維持するために重要な役割を果たしています。

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