肉質虫

肉質虫とは

肉質虫（にくしつちゅう）は、アメーバのような運動をする原生生物のグループです。かつては原生動物の主要な分類群の一つとして扱われていましたが、現在では、進化的に異なる複数の系統からなる多系統群であることが明らかになっています。この記事では、肉質虫の分類、形態、運動、生活環、ミトコンドリアの特徴について解説します。

名称と系統

肉質虫（Sarcodina）という名称は、かつて原生動物の最上位の分類単位として用いられていました。この群の代表的な生物はアメーバであり、葉状仮足を持つアメーバ類、糸状仮足を持つアメーバ類、有孔虫類、太陽虫類、放散虫類などが含まれていました。しかし、これらの群は必ずしも単一の系統ではなく、多系統であることがわかってきています。また、粘菌類を肉質虫に含めるかどうかについても議論が重ねられてきました。

アメーバを含む分類群に対しては、古くから根足虫（Rhizopoda）という語も使われてきました。しかし、根足虫にはアメーバとは外見や偽足の様子が大きく異なる生物も含まれており、アメーバのイメージからはかけ離れたものも存在します。そのため、アメーバを含む一群を指す場合は根足虫、全体を指す場合は肉質虫という使い分けがされることもあります。現在では、肉質虫という用語がより広く使われる傾向にあります。

粘菌類の扱い

粘菌類を肉質虫に含めるかどうかは、長い間議論されてきました。20世紀初頭には、粘菌類を原生動物として扱うべきという提案があり、その際には動菌類（Mycetozoa）という名称が使われました。しかし、後に粘菌類は菌類とみなされることが多くなり、原生動物から外される傾向が強まりました。ところが20世紀末からの分類学の大きな変化の中で、粘菌類は菌類とは異なる系統であると見なされるようになり、便宜的な群として肉質虫に含める例が増えています。また、粘菌類の一部については、類縁関係が改めて問い直されています。

形態と運動

肉質虫は、原形質流動によって細胞を変形させ、偽足を形成することで運動します。偽足の形にはいくつかの型があり、その違いは分類を考える上で重要な要素となっています。また、一時的に鞭毛を持つものも存在します。中には、変形する細胞と鞭毛を両方持つものもおり、このような生物は鞭毛虫とまとめて肉質鞭毛虫類と呼ばれることもあります。

仮足の種類

アメーバは裸の細胞で、細胞全体が変形して移動します。この運動をアメーバ運動といい、移動方向に伸びた細胞の突出部を偽足または仮足といいます。アメーバの作る偽足は先端が丸く幅の広い葉状偽足です。粘菌類の変形体もアメーバに似ていますが、原形質の流れが速く、その経路が管状になる傾向があるため、粘液状仮足とも呼ばれます。一方、幅が狭く先端が尖った円錐状の偽足を糸状偽足といいます。糸状偽足は多少枝分かれしますが、網目状にはなりません。有孔虫の偽足も糸状に見えますが、多くの顆粒を含み、先端向きと根元向きの細胞質の流れが共存しており、網状に繋がることもあります。これを顆粒状網状偽足といいます。太陽虫や放散虫の偽足は、細い針状で分枝せず、中心には軸があるので軸足と呼ばれます。

アメーバの中には殻を持つものもおり、その場合は、殻から偽足を伸ばして運動します。殻の形は種類によって様々ですが、偽足を出す穴があり、そこから偽足を伸ばします。

生活環

肉質虫の生活環は分類群によって様々です。多くの種類では、無性生殖として細胞分裂を行います。有性生殖は多様で、接合を行うもの、配偶子を形成するものなどがいます。有孔虫では世代交代が見られ、アメーバ類では有性生殖が知られていません。放散虫や有孔虫では、鞭毛を持つ遊走子の例も報告されています。

ミトコンドリア

肉質虫の多様な生活環は、これらの群が異なる進化系統から構成されていることの現れと見ることもできます。このことは、ミトコンドリアの形質からも裏付けられています。ミトコンドリアは真核生物のほとんど全てが持つ細胞小器官で、酸素呼吸に関わっています。しかし、原生生物ではミトコンドリアに特有の形質が見られることが知られており、例えば、クリステと呼ばれる内膜のひだの形状が異なります。アメーバ類のクリステは平板状ですが、有孔虫類のクリステは管状です。管状クリステは粘菌類や繊毛虫にも見られ、原生生物の複数の群で見られる特徴です。また、アメーバに似た姿のペロミクサは、ミトコンドリアを持っていません。

各群のクリステの形は以下の通りです。

ミトコンドリア無し：ペロミクサ
クリステは平板状：アメーバ類、アクラシス類、太陽虫
クリステは管状：粘菌類、有孔虫類、放散虫（多泡類、濃彩類）

下位分類

肉質虫亜門は、さらに以下のグループに分類されます。ただし、これらの分類は必ずしも系統的なものではなく、便宜的なものとして扱われることもあります。安定した体系はまだ確立されていません。

根足虫上綱 Rhizopoda
葉状根足虫綱 Lobosea：アメーバ、有殻アメーバ
糸状根足虫綱 Filosea：無殻糸状根足虫、有殻糸状根足虫
顆粒状根足虫綱 Granuloreticulosea：有孔虫、ビオミクサ(Biomixa)
クセノフィオフォラ綱 Xenophyophorea
Caryublastea：ペロミクサ(Pelomixa)
有軸仮足虫上綱
棘針綱 Acantharae
多泡綱 Polycystinea
濃彩綱 Phaeoarea：上記3つはかつてはまとめて放散虫とされた。
太陽虫綱 Heliozoea

このように、肉質虫は多様な生物群であり、分類は複雑で未解決な点も多く残されています。しかし、これらの生物の形態や生態を研究することで、生物進化の謎を解き明かす手がかりが得られると考えられます。

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