肥前三川信号場

概要

肥前三川信号場（ひぜんみかわしんごうじょう）は、長崎県長崎市長崎市三川町に設置されている、九州旅客鉄道（JR九州）が管轄する長崎本線の信号場です。

単線区間である長崎本線のこの区間において、列車の行き違いや追い越しを可能にするための重要な施設として機能しています。特に、長崎駅と諫早駅を結ぶ長崎本線のうち、いわゆる「市布経由」と呼ばれる新線のルート上に位置しており、その中でも特徴的なのが、全長約6kmにも及ぶ長崎トンネルの内部に設けられている点です。九州地方のJR線において、列車交換を行う信号場がトンネル内に設置されているのは、この肥前三川信号場が唯一であり、極めて珍しい存在と言えます。

歴史的変遷

肥前三川信号場は、長崎本線の輸送力増強を目的としたルート変更、すなわち市布経由の新線開業と同時に、1972年（昭和47年）10月2日に供用を開始しました。当初は非電化区間の施設として運用されていましたが、その後の輸送需要の増加に対応するため、長崎本線新線の電化工事が進められ、1976年（昭和51年）6月6日には、信号場構内を含む全線で電化が完了しました。

電化後、電車による高速運転が行われるようになり、信号場はその機能を遺憾なく発揮しました。しかし、2022年（令和4年）9月23日に九州新幹線（西九州ルート）が開業するのに伴い、並行在来線となった肥前浜駅 - 諫早駅 - 長崎駅間を含む諫早駅 - 長崎駅間が非電化区間へと移行しました。これにより、肥前三川信号場も再び非電化の施設として運用されることとなり、電化設備は撤去されました。

構造と機能

この信号場は、単線区間における列車交換を可能にするために、2本の線路を備えた構造となっています。長崎トンネル内部という限られた空間に設けられており、その設計にはいくつかの特徴が見られます。基本的な線路配置は、長崎駅方面を向いて左側が本線、右側が待避線として機能します。

さらに、一線スルー方式が採用されています。これは、本線側を走行する列車が、信号場で停車することなく高速で通過できる構造であり、単線区間における列車の遅延防止やダイヤ設定の柔軟性向上に寄与します。本線通過列車は速度を落とす必要がなく、待避する列車のみが待避線に入線して他の列車の通過を待ちます。これにより、線路容量の有効活用が図られています。

長崎トンネル内に信号場があるという特異性は、保守管理や建設コストの面で特別な配慮が必要となりますが、地理的な制約の中で効率的な列車運行を実現するための選択でした。九州で唯一のトンネル内信号場として、その存在は日本の鉄道信号場の中でも注目すべき点の一つです。

周辺情報とアクセス

肥前三川信号場は長崎トンネル内に位置するため、直接的なアクセス経路はありません。信号場の位置する長崎市三川町の周辺には、長崎自動車道と長崎バイパスが交差する地点に近いことから、長崎バイパスの川平インターチェンジなどが比較的近くにあります。

隣接する駅としては、JR長崎本線の下り方面（諫早方面）に現川駅（うつつがわえき）があり、上り方面（長崎方面）には浦上駅（うらかみえき）があります。この区間は、特急列車や普通列車など、様々な列車が行き交う長崎本線の主要区間の一部を構成しています。

関連事項

肥前三川信号場は、日本の数ある信号場の中でも、トンネル内に設置されているという点で特徴的な存在です。過去には、北海道の石勝線に鬼峠信号場や、上越線の茂倉信号場など、同様にトンネル内に設けられた列車交換用信号場が存在しましたが、これらは現在では廃止されています。肥前三川信号場は、九州における現役のトンネル内信号場として、その希少性を保っています。日本の信号場全体を網羅した「日本の信号場一覧」においても、その特異な立地ゆえに言及されることがあります。

長崎本線の円滑な運行、特に単線区間での列車密度を確保する上で、肥前三川信号場は目立たないながらも極めて重要な役割を果たしています。その歴史と構造は、日本の鉄道技術と運営の一端を示す興味深い事例と言えるでしょう。

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