胡同

北京の歴史を刻む細道、フートン

フートン（衚衕、拼音: hútòng）とは、主に中華人民共和国の首都である北京市の旧城郭内に見られる、独特の情緒を持つ細い路地のことを指します。その歴史は古く、モンゴル民族が中国を支配した元（げん）の時代にまで遡ります。

「フートン」という名称には、北京語における伝統的な略字や中国語の簡体字で「胡同」と表記されることが多く、日本語でも同様に「胡同」と記されることが一般的です。

フートンには、北京の伝統的な家屋建築である「四合院（しごういん）」が数多く面しています。これらの歴史ある建築物と相まって、フートンは古き良き時代の北京の面影を今に伝える貴重な空間となっています。

名称の起源を巡る説

「フートン」という呼称の起源については諸説ありますが、広く知られているのは、モンゴル語で「井戸」を意味する「xuttuk」という言葉が中国語に音訳されたものである、という説です。これは、当時の集落が井戸を中心として形成されていたことから来ていると考えられます。

古都の都市計画が生んだ道

フートンの歴史は、1267年に建設が始まった元朝の都、大都（だいと。現在の北京）の都市計画に深く根差しています。当時の道路建設に関する規定では、都市の主要な通りは幅二十四歩（約37.2メートル）を「大街（たいがい）」、それに次ぐ十二歩（約18.6メートル）を「小街（しょうがい）」、そして最も狭い六歩（約9.3メートル）の道を「胡同」と定めていました。

その後、明朝の永楽帝が南京からこの地に都を移し、大都を基礎として北京城を築いた際、城内の主要な道路のほとんどは元の設計をそのまま引き継ぎました。しかし、明代以降は道路建設に関する厳格な規定がほぼなくなり、計画性のない不規則な路地が多数出現するようになります。特に、明代十二代の嘉靖帝の時代に北京城の南側に外城（がいじょう）が建設され始めて以降、フートンの数はさらに増加していきました。

時代の変遷と共にフートンの数は増え続け、清朝の頃には2076を数え、中華人民共和国成立直前の1949年の統計では、その数は6,000以上に達していたとされています。

現代における姿と生活

歴史的な北京の街並みを色濃く残しているフートンは、近年、国内外からの観光客に大変人気のあるスポットとなっています。特に、自転車タクシー（輪タク）に乗ってフートンを巡るツアーは、その雰囲気を気軽に味わえる新たな観光スタイルとして注目を集めています。

現在も、旧市街（旧城内）の北部や、かつての外城部を中心に、多くのフートンが失われずに残っています。例えば、北京有数の繁華街である王府井（ワンフーチン）や西単（シーダン）のあたりでも、大通りから一歩裏手に入ると、昔ながらのフートンが息づいています。このような地区では、共同トイレを持ち回りで清掃する人々の姿や、台所を持たない家のために安価な食事を提供する「小吃店（シャオチーディエン）」と呼ばれる軽食堂などが見られ、フートンに暮らす庶民の日常的な生活の一端を垣間見ることができます。

フートン内の古い家屋の多くは、各住居に専用のトイレを備えておらず（台所がない家も少なくありません）、そのためフートンごとに共同管理のトイレが設置されています。しかし、共同トイレの利用には不便が伴うことも否めません（特に北京の主要な観光地ではほぼ見られなくなった、壁のないタイプのトイレもかつては多かったと言われます）。

変貌するフートン

近年の中華人民共和国の著しい経済発展や、2008年の北京オリンピック開催に伴う大規模な都市整備、再開発の波は、フートンにも押し寄せています。歴史的価値が認められ、保存地区として指定された一部のフートンを除き、多くのフートン内の家屋が近代的な建築物に改築されたり、あるいは取り壊されたりしています。これにより、昔ながらのフートンの景観は少しずつ失われつつあります。

「胡同」という名の広がり

「胡同」という名称は、本来、北京の旧城壁内部の細い路地に対して使われることが多かったです。しかし、実際には旧城壁の外側に位置する路地の中にも、「胡同」の名が付いたものが多数存在しています。旧城壁外の路地には、「街（ジエ）」や「巷（シアン）」、「条（ティヤオ）」といった、異なる名称が付けられていることが多いのも特徴です。

フートンは、単なる細い路地ではなく、北京の歴史、文化、そして人々の暮らしの記憶が刻まれた生きた遺産です。開発による変化が進む中でも、その独特の魅力は多くの人々を引きつけ続けています。

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