胡桃館遺跡

胡桃館遺跡：平安時代の息吹を伝える古代建築

秋田県北秋田市に位置する胡桃館遺跡は、9世紀後半から10世紀初頭にかけての平安時代に存在した、役所または寺院の跡と推定される遺跡です。この遺跡は、北秋田市の指定史跡として保護されており、出土した建築部材を含む多くの遺物が、秋田県の有形文化財、そして国の重要文化財としてその価値を認められています。

発見の経緯

胡桃館遺跡が最初にその姿を現したのは、1961年（昭和36年）のことでした。鷹ノ巣駅の北西に位置する鷹巣中学校（現・北秋田市立鷹巣中学校）の運動場を造成中、偶然にも須恵器の大甕や土師器の鉢が発見されたのです。その後も、野球場の建設工事中に掘立柱や板材、貫穴のある角柱が見つかり、遺跡の存在が徐々に明らかになっていきました。

1965年（昭和40年）には、野球場の整地中に刀子や土師器の坏、箸といった生活用具に加え、巨大な土居を持つ土台建物が出現し、その重要性が認識されるようになりました。これを受け、秋田県教育委員会が調査を実施し、詳細な記録が作成されました。

発掘調査と発見

1967年（昭和42年）から3年間にわたる本格的な発掘調査の結果、建物の上半分は洪水によって流失したものの、下半分は当時のまま土砂に埋没している状態で保存されていることが判明しました。調査では、4棟の建物と柵列、掘立柱列が確認され、建物は柵で囲まれていました。これらの建物は、住居として使われたものと、高床建物や役所のような施設として使われたものがあったと考えられています。

建物にはスギ材が使用され、30センチメートル四方の角材や、厚さ5センチメートル、幅20センチメートルほどの板材が用いられていました。その構造は非常に立派で、当時の建築技術の高さを物語っています。特に注目されるのは、中心的な建物である2棟が「板校倉」と呼ばれる構造を持っていたことです。校倉建物は、木材を積み上げて壁を作る構造で、東大寺の正倉院などにも見られる特徴的な建築様式です。

出土品と遺跡の年代

遺跡からは、土師器や須恵器、木器、墨書のある土器や木札・木簡などが出土しています。これらの遺物から、遺跡が915年の十和田火山の噴火による泥流災害によって埋没したと推定されています。興味深いことに、米代川を挟んだ対岸でも同様の埋没建物が発見されており、江戸時代には菅江真澄や平田篤胤といった学者たちがその記録を残しています。

木簡の発見と元慶の乱

1967年に発掘された木簡には、「月料給出物名張」という記述とともに、「玉作麻呂」などの名前と米の数量が記されていました。この「玉作」という名前は、878年から879年にかけて発生した元慶の乱で政府側についた蝦夷の名字であることから、当時の社会情勢を反映していると考えられます。

近年の調査

2008年（平成20年）には、北秋田教育委員会と奈良文化財研究所が合同で地中レーダー調査を実施し、新たな遺跡の存在が示唆されました。その後の調査報告会では、新たに5か所で建物が埋まっている可能性が高いことが報告され、今後の発掘調査が期待されています。

胡桃館遺跡は、古代東北地方の政治や文化を知る上で非常に重要な遺跡であり、その価値は計り知れません。現在、北秋田市教育委員会に申し込むことで、出土品の収蔵庫を見学することができます（学術的な調査に限る）。

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