胸腔鏡

胸腔鏡：胸腔内の精密検査と低侵襲治療

胸腔鏡とは、胸腔（胸の中にある空間）を観察し、治療を行うための細い内視鏡です。小さなカメラと光源が付いた先端部と、操作するためのハンドルから構成され、胸部手術を低侵襲に行うために用いられます。胸腔鏡を用いた検査を胸腔鏡検査、治療を胸腔鏡下手術（VATS：Video-assisted thoracoscopic surgery）と呼びます。

胸腔鏡が用いられる疾患

胸腔鏡は、様々な胸部疾患の診断と治療に用いられます。代表的な疾患として、以下が挙げられます。

肺がん: 胸腔鏡を用いた手術では、早期の肺がんを小さな切開で摘出することが可能です。従来の開胸手術に比べて、傷が小さく、回復も早いという利点があります。
気胸: 肺に穴が開き、空気が胸腔内に漏れる病気です。胸腔鏡を用いて、穴を塞ぐ処置を行うことができます。
縦隔腫瘍: 胸腔と肺の間にある縦隔にできる腫瘍に対しても、胸腔鏡を用いた手術が行われます。腫瘍の種類や大きさによって、適切な治療法が選択されます。
肝臓癌: 特に、横隔膜直下のS8と呼ばれる領域の肝臓がんに対しては、胸腔鏡補助下ラジオ波焼灼術が有効な治療法として用いられることがあります。この手術では、胸腔鏡を用いて腫瘍の位置を確認しながら、ラジオ波で腫瘍を焼灼します。

胸腔鏡手術の手順

胸腔鏡手術は、以下の手順で行われます。

1. 麻酔: 患者さんは全身麻酔を受けます。
2. 気管内挿管と分離肺換気: 呼吸を補助するために気管内挿管が行われます。この際、左右の肺をそれぞれ独立して換気できる分離肺換気用の挿管チューブが使用されます。これは、手術を行う側の肺を一時的に脱気し、手術視野を確保するために必要です。
3. 皮膚切開とポート挿入: 胸部に数カ所の小さな切開を行い、胸腔内にポート（小さな筒状の器具）を挿入します。ポートを通して内視鏡や手術器具を挿入します。
4. 内視鏡手術: ポートを通して挿入された内視鏡で胸腔内を観察しながら、手術を行います。手術の内容は、疾患の種類や状態によって異なります。
5. 閉鎖: 手術が終了したら、ポートを取り除き、切開部を縫合します。

胸腔鏡と関連技術

胸腔鏡は、腹腔鏡や縦隔鏡などの他の内視鏡手術と技術的に共通点が多く、これらの技術の進歩は互いに影響を与えながら発展しています。腹腔鏡は腹腔内の手術、縦隔鏡は縦隔の手術に使用されます。これらの内視鏡手術は、いずれも開腹手術や開胸手術に比べて傷が小さく、患者さんの負担を軽減できるというメリットがあります。

胸腔ドレナージとの関連

胸腔鏡手術後、胸腔内に残った空気や体液を除去するために、胸腔ドレナージが行われる場合があります。これは、細い管を胸腔内に挿入し、吸引によって体液や空気を排出する処置です。胸腔ドレナージは、手術後の合併症の予防に役立ちます。

まとめ

胸腔鏡は、胸部疾患の診断と治療に大きく貢献する低侵襲な医療技術です。小さな切開で手術できるため、患者さんの身体的負担を軽減し、早期回復を促すことが期待できます。今後も技術の進歩によって、さらに多くの疾患への適応が進むと予想されます。

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