能因本

能因本について

能因本（でんのういんしょじほん）は、『枕草子』の一つの写本系統で、一般的に「能因本」として知られています。この作品は、清少納言の随筆の中でも特に多様なテーマが融合した雑纂本として位置づけられ、奥書には原作者清少納言の実子である橘則長に関する記述が残されています。その文中では、結びつきを持つ能因（橘永愷）が本を所蔵していたと伝えられています。

構成と特徴

能因本は『枕草子』の写本の系統の中でも、随想、類想、回想などが入り混じる特徴を持っています。三巻本と比べて文章が豊富であるため、清少納言が自ら手を加えたのか、もしくは後世の誰かによって加筆や改編がなされたのかについては、研究者の間で様々な意見が存在します。

特に注目すべきは、例えば『淑景舎』という表現が三巻本では「しけいさ」と表記されているのに対し、能因本では「しけいしや」と書かれている点です。このことから、能因本の文体は平安時代中期以降のものと考えられています。さらに、跋文に関しても独特で、短い跋文と長い跋文の二種類が存在し、それぞれが異なる内容を持っています。ただし、それらがどのように関係しているのかは不明確です。

歴史的背景と注釈の重要性

筆者の清少納言が活躍していた時代、三巻本は既に難解な作品だとされ、鎌倉時代には「不散不審」と評されるに至りました。そのため、江戸時代においては能因本系統の作品を解釈するための注釈書が増えました。これには、加藤磐斎の『清少納言枕草子抄』や北村季吟の『枕草子春曙抄』などが含まれます。ただし、これらの注釈書は必ずしも能因本の直系に基づいているわけではなく、一部には他の写本の影響を受けたものも存在します。特に、池田亀鑑が1938年に発表した研究が影響を与えてからは、三巻本が再評価され、能因本に依拠した作品は減少しています。

主な写本とその評価

能因本には、いくつかの重要な写本があります。三条西家旧蔵本や富岡家旧蔵本、高野辰之氏旧蔵本などがそれにあたります。特に三条西家旧蔵本は、1970年に松尾聰により影印本が刊行され、日本古典文学全集の底本となりました。富岡家旧蔵本は、一部が火災によって破損したものの、後に翻刻版が刊行されています。

さらに、江戸時代に刊行された木活字本も存在し、これらは文意を明瞭にする目的で改変された形跡があります。様々なバージョンが存在する能因本ですが、現在でも入手可能なものも多く、研究の場において重要な資源とされています。

参考文献とリンク

能因本に関する研究は様々に行われており、特に多くの注釈書が存在します。彼らの著作を通じて、能因本の魅力やその歴史的意義についてさらなる理解を深めることができるでしょう。また、九州大学附属図書館には、江戸時代の古活字本のデータベースもあり、興味深い資料が揃っています。

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