脱法ドラッグ

脱法ドラッグ：その実態と課題

近年、社会問題化している脱法ドラッグ。本稿では、その歴史、種類、薬物政策、国際的な取り組みを多角的に解説します。

脱法ドラッグとは？

脱法ドラッグとは、法律で規制されている薬物の類似品や代替品として、規制の網を逃れるように作られた薬物の総称です。かつては「合法ドラッグ」と呼ばれていましたが、2000年頃から「脱法ドラッグ」、「違法ドラッグ」、「危険ドラッグ」など、行政側の呼称は時代と共に変化してきました。英語では「リーガル・ハイ（legal high）」や専門用語として「新規向精神薬（novel/new psychoactive substance）」と呼ばれます。

脱法ドラッグの歴史

日本では1995年頃から「合法ドラッグ」として、ハーブやスマートドラッグなどが販売され始めました。当初は、薬効のあるハーブ類が中心でしたが、2000年頃からインターネットの普及と共に乱用が広がり、様々な種類の脱法ドラッグが出現しました。

東京都による買い上げ調査で医薬品成分が含まれていることが判明し、2000年に「脱法ドラッグ」という用語が用いられるようになりました。その後、マジックマッシュルームなどの規制が行われましたが、規制逃れのため、新たな薬物が次々と登場する「いたちごっこ」状態が続いています。

2005年には、5-MeO-DIPTなどの中毒情報が増加し、トリプタミンやフェネチルアミン系の化学構造を持つ薬物が多く流通しました。さらに、大麻に類似した合成カンナビノイドを含む「合法ハーブ」が流行し、2011年には急性中毒の問い合わせが急増しました。

これを受けて、薬事法における指定薬物の運用が開始され、2013年には類似構造の薬物を一括で規制する「包括指定」制度が導入されました。しかし、いまだに「クリーナー」「芳香剤」などとして販売されるなど、根絶には至っていません。

脱法ドラッグの種類

脱法ドラッグは、形状、化学構造、作用などによって様々な種類に分類されます。主な種類として、以下のものが挙げられます。

合成カンナビノイド: 大麻のTHCと似た作用を持つ合成化合物で、ハーブ状のお香などに混入されて販売されることが多いです。
新規精神刺激薬: 既存の精神刺激薬と同様の依存性や過剰摂取のリスクがあります。
エフェドラ系: マオウやエフェドリンを含む薬物で、ダイエット薬やサプリメントなどとして販売されることがあります。
新規幻覚剤: LSDやマジックマッシュルームのような既存の幻覚剤と似た作用を持つ合成化合物です。
* ニトライト系: 亜硝酸エステルを主成分とする薬物で、血管拡張作用があり、循環器系に障害を起こす可能性があります。

脱法ドラッグの化学構造

フェネチルアミン系やトリプタミン系など、共通の化学構造を持つ薬物が多数存在します。しかし、化学構造が類似していても、作用は異なる場合があり、単純な分類はできません。合成カンナビノイドも、THCとは大きく異なる化学構造を持つものがあります。

薬物政策と規制

アメリカでは「薬物戦争」として厳罰主義がとられてきましたが、依存を促進するとの批判を受け、回復支援プログラムなども導入されています。日本はアメリカの政策を後追いする形をとっており、厳罰主義と包括規制を組み合わせた政策を採用しています。しかし、回復支援体制の遅れが指摘されており、再犯率が高いという課題があります。

国際的には、麻薬に関する単一条約と向精神薬に関する条約で200種類以上の薬物が規制されていますが、新たな薬物が次々と登場しており、包括規制や類似規制など様々な対策が講じられています。日本は2005年に国連麻薬委員会に決議案を提出するなど、国際的な連携にも取り組んでいます。

日本における規制

日本では、麻薬及び向精神薬取締法、薬事法、地方自治体の条例などによって規制が行われています。2013年からは、包括指定制度により類似構造の薬物を一括で規制できるようになりました。また、2014年には指定薬物の所持・使用も違法化されました。

結論

脱法ドラッグは、その種類、流通形態、薬理作用など多岐にわたる複雑な問題であり、厳罰主義と回復支援の両面からの対策が求められています。また、国際的な連携強化も不可欠です。今後の更なる研究と、社会全体の理解と協力が必要となるでしょう。

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