腰物奉行

腰物奉行とは

腰物奉行（こしものぶぎょう）は、江戸幕府における役職の一つで、将軍の佩刀（はいとう）や装身具、諸大名から献上された刀剣類、そして諸大名に下賜する太刀や刀、脇差など一切の刀剣類を管理する重要な役割を担っていました。別名、御腰物奉行とも呼ばれ、時代によっては御腰物頭や御腰物番頭とも称されていました。

職務内容

腰物奉行は、若年寄の支配下に置かれ、定員は2名でした。家格は200石から1000石の者が選ばれ、焼火之間詰（やきびのまづめ）という場所で勤務していました。配下には、組頭（役料100俵）が2名、腰物方（200俵高）が15〜16人、さらに腰物持や腰物奉行同心といった人々が10人ほどいました。

腰物奉行の重要な職務の一つに、刀剣の試し斬りがありました。ただし、実際に刀を振るうのは腰物奉行ではなく、山田浅右衛門という人物でした。死罪が確定した罪人を試し斬りすることで刀の切れ味を検分し、その結果を将軍に報告しました。この試し斬りには、牢屋奉行などが立ち会い、検分を行いました。試し斬りは、腰物奉行が町奉行と協議して日時を決定し、牢屋敷で行われました。

沿革

腰物奉行の歴史は、承応2年（1653年）に押田三次郎がこの職に就任したことに始まります。当初、寛文6年（1666年）には役料400俵でしたが、天和2年（1682年）に一時的に廃止されました。その後、享保8年（1723年）に700石高の役職として復活しました。

元禄14年（1701年）には、腰物頭が腰物奉行に改称され、それまで腰物奉行と呼ばれていた職務は腰物方に変更されました。慶応2年（1866年）には、腰物方とともに腰物奉行の職は廃止され、その職務は納戸方という役職が兼務することになりました。

まとめ

腰物奉行は、江戸幕府において将軍の刀剣類を管理し、その品質を維持する重要な役割を担っていました。試し斬りという独特な職務を通じて、刀剣の性能を確かめ、その結果を将軍に報告することで、武士の魂とも言える刀剣の価値を保っていたと言えるでしょう。その歴史は、江戸時代の役職制度の変化とともに変遷を遂げ、幕末にはその役割を終えることとなりました。

参考文献

安藤雄一郎, 丹野顯, 加唐亜紀『江戸の武士 仕事と暮らし大図鑑』廣済堂, ISBN 978-4-331-80357-8
川口謙二, 池田孝, 池田政弘『江戸時代奉行職事典』東京美術選書, 1983年, ISBN 4-8087-0139-1
川口謙二, 池田孝, 池田政弘『江戸時代役職事典』東京美術選書, 1981年, ISBN 4-8087-0018-2
藤井讓治『江戸時代の官僚制』法藏館, ISBN 978-4-8318-2652-7, 2023年9月
* 横倉辰次 『江戸牢獄・拷問実記』 雄山閣, ISBN 4-639-01812-6

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