臥せる探偵

『臥せる探偵』：複雑に絡み合う陰謀とホームズ家の秘密

『臥せる探偵』（原題: The Lying Detective）は、BBCが制作した人気ドラマ『SHERLOCK（シャーロック）』のシーズン4における第2話です。このエピソードは、アーサー・コナン・ドイルの短編小説『瀕死の探偵』を原案とし、シャーロック・ホームズとその周囲の人々をめぐる複雑な陰謀と、ホームズ家の秘密が交錯する物語です。

あらすじ

物語は、慈善家で実業家のカルヴァートン・スミス（演：トビー・ジョーンズ）の娘であるフェイス・スミス（演：ジーナ・ブラムヒル）が、シャーロック（演：ベネディクト・カンバーバッチ）に依頼するところから始まります。彼女は3年前に父親から殺人計画を聞かされたものの、同時に投与された忘却剤によって、誰を殺害しようとしたのか思い出せないと訴えます。シャーロックは彼女を夜の散歩に連れ出し、自殺を企てていた彼女から銃を取り上げ川に投げ捨てますが、その間にフェイスは姿を消してしまいます。

その後、シャーロックはスミスの計画が特定の人物を狙ったものではなく、無差別の殺人行為を目的としたシリアルキラーであるという結論に至り、その情報をTwitterで発表します。一方、妻メアリー（演：アマンダ・アビントン）を亡くしたばかりのジョン（演：マーティン・フリーマン）は、不眠症とメアリーの幻覚に悩まされ、セラピストの元に戻っていました。シャーロックとは疎遠になっていたジョンでしたが、ハドスン夫人（演：ユーナ・スタッブス）によって薬物中毒となっていたシャーロックが無理やり連れてこられます。

シャーロックは、スミスのCM撮影に付き合った後、彼が経営する病院へと向かいます。シャーロックはスミスを追い詰めるためにフェイスを呼び出しますが、病院に現れたのは彼が一夜を過ごした女性とは別人でした。混乱したシャーロックはスミスを襲おうとし、ジョンによって制止され、精神病院に入院することになります。

スミスは、実は病院全体を「殺人病棟」に作り変え、シャーロックを殺害しようと企てていました。一方、ベーカー街221Bではマイクロフト（演：マーク・ゲイティス）による家宅捜索が行われ、ジョンはメアリーがシャーロックに残したビデオメッセージを発見します。ジョンは病院へ急行し、スミスに殺されかけたシャーロックを救出します。ジョンの持ち込んだ杖には盗聴器が仕掛けられており、スミスの告白を録音したことで彼は逮捕されます。

スミスの逮捕後、ジョンはメアリーの死にシャーロックの責任はないと断言しますが、シャーロックのもとにアイリーン・アドラーからのメッセージが届きます。ジョンは、死んだはずの彼女が生きていたことを知ります。そんな中、シャーロックは偽フェイスから受け取ったメモに、モリアーティのメッセージである「Miss me?」という文字があることに気づきます。その偽フェイスこそ、ホームズ家の3人目の妹であるユーラス（演：シャーン・ブルック）であり、ジョンが浮気した相手エリザベスや、セラピスト、偽フェイスも全て彼女の変装だったことを明かします。ユーラスはジョンへ向けて銃を撃ち、物語はクリフハンガーで幕を閉じます。

キャストと日本語吹替

シャーロック・ホームズ - ベネディクト・カンバーバッチ（三上哲）
ジョン・ワトスン - マーティン・フリーマン（森川智之）
ハドスン夫人 - ユーナ・スタッブス（谷育子）
レストレード警部補 - ルパート・グレイヴス（原康義）
モリー・フーパー - ルイーズ・ブリーリー（片岡身江）
メアリー・ワトスン - アマンダ・アビントン（石塚理恵）
マイクロフト・ホームズ - マーク・ゲイティス（木村靖司）
カルヴァートン・スミス - トビー・ジョーンズ（後藤哲夫）
フェイス・スミス / ユーラス・ホームズ - シャーン・ブルック（園崎未恵）

スタッフ

脚本：スティーヴン・モファット
共同制作者：マーク・ゲイティス
監督：ニック・ハラン
* 音楽：デヴィッド・アーノルド / マイケル・プライス

原作との対比

このエピソードの原案は、コナン・ドイルの短編『瀕死の探偵』です。悪役カルヴァートン・スミスの名前も、この原作から取られています。また、作中には原作や過去の映像作品へのオマージュとなる台詞や設定が数多く見られます。

設定・制作秘話

カルヴァートン・スミスは、シリーズ史上「最もダーク」な悪役として描かれています。彼の人物像は、イギリスの司会者で性犯罪を犯していたとされるジミー・サヴィルとの関連性が指摘されています。また、スミスが言及するH・H・ホームズは、19世紀末のシカゴでホテルを経営し、宿泊客を殺害したとされる連続殺人犯です。

ユーラスは、ギリシャ神話の東風エウロスに由来しており、その登場は、シャーロックがジョンの姉を兄と勘違いするシーンがある『ピンク色の研究』との対比にもなっています。ユーラスを演じたシャーン・ブルックは、シャーロック役のカンバーバッチがタイトルロールを演じた『ハムレット』でオフィーリアを演じていました。

評価

このエピソードは、全英で600万人が視聴し、27.4％の視聴率を記録しました。これは、放送時点でシリーズ最低の数字でした。しかし、各メディアからの評価は高く、監督の演出や俳優の演技が賞賛されました。また、プライムタイム・エミー賞に複数の部門でノミネートされました。

『臥せる探偵』は、複雑な人間関係と陰謀、そして衝撃的な展開が組み合わさった、見ごたえのあるエピソードです。この物語は、シャーロック・ホームズの世界をさらに深く掘り下げ、視聴者を新たな謎へと誘います。

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