自動車ショー歌

「自動車ショー歌」は、1964年（昭和39年）に歌手・小林旭によって世に送り出された楽曲です。その最大の特徴は、歌詞の中に多数の自動車の車種名やメーカー名を、巧妙な駄洒落として織り交ぜている点にあります。この遊び心あふれる歌詞と覚えやすいメロディーが当時の人々を魅了し、1965年5月までに累計60万枚という大きなセールスを記録する大ヒットとなりました。翌1965年に制作された小林旭主演の映画『投げたダイスが明日を呼ぶ』では、挿入歌としても使用されています。

楽曲情報とリリース

オリジナルのシングル盤は1964年に日本クラウンから発売されました（規格品番：CW-170）。「自動車ショー歌」（2分40秒）の制作には、作詞に星野哲郎、作曲・叶弦大、編曲・重松岩雄という、当時のヒットメーカーが携わっています。演奏は宮間利之とニューハード・オーケストラが担当しました。このシングルのB面には、同じく叶弦大作曲による「ほらふきマドロス」（作詞：南沢純三、編曲：重松岩雄、演奏：宮間利之とニューハード・オーケストラ）が収められています。

その後、1972年には「ベスト・カップル・シリーズ」として再発売もされています（規格品番：CW-5015）。A面はオリジナルと同じ「自動車ショー歌」ですが、B面は「グングン節」（作者不詳、補作詞：星野哲郎、採譜・編曲：叶弦大、演奏：クラウン・オーケストラ）に変更されています。

歌詞を巡る騒動と放送規制

本楽曲は、そのユニークな歌詞ゆえに大きな騒動を引き起こし、放送を巡る規制の対象となりました。特に問題視されたのは、オリジナル歌詞の1番に登場する「ここらで一発シトロエン」というフレーズです。これが1959年に日本民間放送連盟が定めた要注意歌謡曲指定制度の基準に触れるとして、放送禁止の措置が取られました。

これを受けて、楽曲は早々に歌詞を修正し、「ここらで止めてもいいコロナ」というフレーズに変更して改めてレコーディングが行われ、再発売されました。この一件は、当時の歌謡曲が受けていた表現規制の一端を示すものと言えます。

また、歌詞に企業名や商品名が多数含まれていることから、公共放送であるNHKでは長らく放送される機会が限られていました。しかし、近年は局の内規が緩和されたこともあり、放送される機会が増えています。1993年放送の『ふたりのビッグショー』で小林旭が本曲を歌った際は、通常表示される歌詞字幕が非表示となりましたが、2007年のNHK-FM『ミュージックプラザ』やBSの番組、2010年の『渋谷らいぶステージ』などではフルコーラス放送され、後者では歌詞字幕も通常通り表示されています。

興味深いエピソードとして、歌詞修正によって生まれた「放送禁止」というイメージが、当時の学生運動家の間で反体制的なシンボルと捉えられ、アングラ・フォークのような文脈で集会において合唱されることもあったと伝えられています。

登場する車種・メーカー（オリジナル版より一部）

歌詞には、当時の国内外の様々な自動車の車種名やメーカー名が、言葉遊びとして散りばめられています。

- トヨペット、ニッサン、パッカード、シボレー、クラウン、ジャガー、フォード、シトロエン（後にコロナに変更）
- ビュイック、タウナス、デボネア、マーキュリー、ルノー、オペル、コルト
- ブルーバード、ミンクス、キャロル、ダットサン、コンテッサ、マツダ、オースチン
- ベンツ、グロリア、ベレット、ヒルマン、クライスラー、リンカーン、ワーゲン、セドリック

他メディアでの使用

本楽曲は、発表から長い年月を経て、様々なメディアで使用され再び注目を浴びることもありました。

テレビ番組では、北海道テレビ制作のバラエティ番組『水曜どうでしょう』の企画「対決列島西日本編」でエンディングテーマとして使用され、出演者や視聴者の間で好評を博しました。番組で使用されたのは、アップテンポにアレンジされたソニー時代の録音バージョンです。この番組での使用がきっかけの一つとなり、後年、同番組の出演者である大泉洋が主演したアニメ映画『茄子アンダルシアの夏』の主題歌として、本曲の替え歌とも言える「自転車ショー歌」が制作される運びとなりました。

また、スーパー戦隊シリーズの一つである『激走戦隊カーレンジャー』（1996年放送）の第2話では、自動車会社の社長役でゲスト出演したエド山口氏が本曲を歌唱する場面が見られました。

カバー、リメイク、替え歌の多様な展開

「自動車ショー歌」のユニークなコンセプトは、時代を超えて多くのアーティストに影響を与え、多様なカバーやリメイク、替え歌を生み出しています。

- 2008年には、声優のたかはし智秋と今井麻美がラジオ番組の企画でカバーし、アルバムに収録しています。
- 替え歌やインスパイアされた楽曲としては、所ジョージによるタバコをテーマにした「タバコショウカ」（1977年）、陣内孝則のソロデビューシングル「陣内の自動車ショー歌」（1982年、歌詞変更）、徳久広司の野球選手版「恋のベースボール」（1983年）、コロッケによる「新自動車唱歌」（1988年、歌詞変更）、嘉門達夫のサッカー版「ワールドカップだぜぃ!」（1998年）、横浜銀蝿の「平成自動車SHOW歌」（2002年）など、多岐にわたります。これらの多くはメロディーを含めオリジナル楽曲として制作されています。
- 特に注目されるのは、忌野清志郎が歌ったアニメ映画『茄子アンダルシアの夏』シリーズの主題歌「自転車ショー歌」（2003年/2007年）です。作詞をオリジナルの星野哲郎氏が手がけており、自動車から自転車にテーマを移した改作として、作品世界に寄り添う楽曲となっています。
- 小林旭本人も、2005年にアサヒビールのCMで商品の名前を織り込んだ替え歌「カクパーショー歌」を披露しています。

さらに、現代の車種名を盛り込んだリメイクも登場しています。

- 2003年には、DOGGY BAGが「新・自動車ショー歌」を発表しました。たきのえいじ作詞、浜圭介作曲による全く新しいメロディーの楽曲に、ラップを取り入れ、シビック、サムスン、ボルボ、エスカレード、レガシィなど、当時の最新車種から海外車までが登場します。
- 2011年には、レゲエシンガーのCoba-Uが、自動車メーカー8社による共同事業の応援ソングとして、「Coba-UのDrive Heart」という題名でリメイクしました。マーチ、ステラ、ヴィッツ、ラパン、プリウス、ランドクルーザーなど、2010年代の日本車を中心に多数の車種名が歌われています。

このように、「自動車ショー歌」は単なる流行歌に留まらず、その斬新なアイデアと時代を映し出す歌詞、そしてそれを巡る様々なエピソードを通じて、日本の大衆文化史に確かな足跡を残した楽曲と言えるでしょう。発表から半世紀以上を経てもなお、形を変えながら多くの人々に親しまれ続けています。
ています。

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