自然発生説

自然発生説とは

自然発生説とは、生物が親を持たず、無生物から直接生まれるという考え方です。別名、偶然発生説とも呼ばれます。この説は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスによって提唱され、17世紀まで広く信じられていました。しかし、その後の科学的な実験によって、自然発生説は否定されることになります。

アリストテレスの観察と考察

アリストテレスは、様々な生物を観察する中で、一部の生物は親からではなく、無生物から生まれると考えました。例えば、ミツバチやホタルは草の露から、ウナギやエビは海底の泥から生まれると記述しています。彼は、生命の基となる「生命の胚種」が世界に広がっており、それが物質を組織して生命を形作ると考えました。これは、現代では生気論に分類される考え方です。

日本における自然発生説

日本語には、「ボウフラがわく」「ウジがわく」といった表現があり、これは古来より人々が自然発生を暗黙のうちに認めていたことを示唆するとも言われています。

自然発生説を肯定する実験

17世紀には、ヤン・ファン・ヘルモントが、小麦の粒と汗で汚れたシャツを壺に入れ、放置するとハツカネズミが自然発生するという実験を行いました。この実験は、当時の科学者たちを勇気づけ、自然発生説を支持する動きを強めました。

自然発生説否定の歴史

自然発生説を否定する動きは、実験によって始まりました。これは、記載を重視していた当時の生物学において、特筆すべき側面です。しかし、レーウェンフックが微生物を発見したことで、自然発生説の完全否定は困難を極めました。肉眼で確認できる生物の自然発生を否定することは比較的容易でしたが、微生物の自然発生を否定することは難しかったのです。

レディの実験

17世紀のフランチェスコ・レディは、対照実験を用いて、自然発生説を否定する実験を行いました。彼は、魚の死体を入れた2つのビンを用意し、一方には蓋をせず、もう一方にはガーゼで蓋をしました。すると、蓋をしないビンにはウジが発生しましたが、ガーゼで蓋をしたビンにはウジが発生しませんでした。この実験により、ウジは自然に発生するのではなく、ハエが卵を産み付けることによって発生することが明らかになりました。ただし、レディ自身は「生命は卵から生じる」とし、寄生虫の自然発生は肯定していました。

微生物の問題

レーウェンフックが微生物を発見したことで、有機物溶液中に微生物が現れる現象が、自然発生の証拠として捉えられるようになりました。特に、ニーダムは、加熱した密閉容器の中でも微生物が発生すると主張し、自然発生説を支持しました。

スパランツァーニの実験

イタリアの動物学者ラザロ・スパランツァーニは、有機物溶液を加熱することで微生物の発生を抑止できることを実験で示しました。さらに、微生物が空中から運ばれて有機物溶液に侵入すると考え、溶液を加熱した後、容器を溶接密閉することで微生物の発生を完全に防ぐことができることを示しました。この実験は、滅菌という概念を生み、食品の保存方法に大きな影響を与えました。

パスツールの実験

パスツールは、有機物溶液の変化と微生物の増殖に因果関係があることを証明するために実験を行いました。彼は、加熱した有機物溶液に、加熱した空気を綿火薬を通して送り込む実験を行い、微生物の増殖が見られないことを確認しました。さらに、有名な「白鳥の首フラスコ実験」により、微生物は空気中から入り込むことを示し、自然発生説をほぼ完全に否定しました。この実験は、微生物の研究における純粋培養の基礎にもなりました。

ティンダルの実験

イギリスの物理学者ジョン・ティンダルは、干草の抽出液中に、従来の加熱法では殺菌できない耐熱性を持つ菌が存在することを突き止めました。これは、ある種のグラム陽性菌が芽胞の状態を取ることで耐熱性を持つことが後に判明しました。この発見は、滅菌にオートクレーブが必要であることを示すものでした。

パスツールの観察

パスツールは、実験だけでなく、観察からも自然発生説に反論しました。蓋を開ける時間を短くした場合、フラスコによって出現する微生物が異なるという観察結果から、空気中には様々な微生物の元になる粒子が浮遊しており、そのどれかがフラスコ内に入り込むことで微生物が発生すると結論付けました。

まとめ

自然発生説は、古代から信じられてきた生命の起源に関する説ですが、多くの科学者たちの実験によって否定されました。レディ、スパランツァーニ、パスツールなどの実験は、科学的な思考の基礎を築き、微生物学の発展に大きく貢献しました。また、これらの実験は、食品の保存技術の進歩にも繋がりました。

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