自画像 (デューラー、1493年)

アルブレヒト・デューラーの初期自画像『アザミを持つ芸術家の肖像』

『自画像』または『アザミを持っている芸術家の肖像』として知られるこの作品は、ルネサンス期のドイツを代表する画家、アルブレヒト・デューラーによって1493年に制作されました。油彩で羊皮紙に描かれ、後にカンヴァスに移されました。デューラーは生涯にわたり多くの自画像を描きましたが、本作はその中でも初期の作品の一つであり、北ヨーロッパの芸術家による自画像の先駆けとしても重要視されています。この作品は、1922年にルーヴル美術館に購入され、現在もそこで展示されています。

作品の背景と意味

1493年、22歳だったデューラーは、ストラスブールで活動していました。彼は既に徒弟修業を終え、遍歴の旅も終えており、翌年には結婚を控えていました。この自画像に描かれている開花した植物、エリギウム・アメティスティヌムは、ドイツ語で「夫婦間の忠実」を意味する「Mannestreue」と呼ばれ、「愛」の象徴とされています。この植物はアザミに似ており、薬や媚薬としても用いられていたと言われています。デューラーは、この植物を手に持つことで、自身の結婚への決意と忠誠心を表現していると考えられています。

この作品は、デューラーが鏡を見ながら描いたとされ、彼の内省的な性格を反映しています。彼はしばしば自分の顔を素描や絵画で分析し、理想化したり、しなかったりしました。画面上部に書かれた言葉「Myj sach die gatAls es obenschtat」（私に関する出来事は神の手の中にある）は、作品の哲学的かつキリスト教的な意図を示しています。また、デューラーの視線は鑑賞者に向かっており、憂鬱で内向的な彼の心理的な複雑さを伝えています。

芸術的特徴と評価

ゲーテは、この肖像画の複製を見て、「計り知れない価値」があると評価しました。ローレンス・ゴーイングは、「他のどの絵画よりも筆致が奔放で、色彩は虹色に近い」と評し、デューラーの作品の中でも独特の存在であると述べています。この作品の筆致は、後のデューラーの作品と比較しても、より自由で色彩豊かな表現が特徴的です。

デューラーはこの作品以降も、『自画像』を26歳と28歳の時に油彩で描いていますが、この1493年の作品は、彼の初期のスタイルと内面の深さを理解する上で非常に重要な作品です。アザミを持つ姿は、単なる肖像画ではなく、デューラー自身のアイデンティティ、結婚への思い、そして信仰心を象徴するものであり、後世の芸術家に大きな影響を与えました。

この作品は、デューラーの生涯における重要な転換期に描かれたものであり、彼の芸術的才能と精神的な深さを同時に示す貴重な例と言えるでしょう。

参考文献

井上靖・高階秀爾編集『カンヴァス世界の大画家 7 デューラー』、中央公論社、1983年刊行、ISBN 4-12-401897-5
中山公男・佐々木英也責任編集『NHKルーブル美術館IV ルネサンスの波動』、日本放送出版協会、1985年刊行　ISBN 4-14-008424-3
ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
Brion, Marcel. Dürer. London: Thames and Hudson, 1960.
Gowing, Lawrence. Paintings in the Louvre. New York: Stewart, Tabori & Chang, 1987. ISBN 1-55670-007-5
Wolf, Norbert. Albrecht Dürer. Prestel, 2010. ISBN 978-3-7913-4426-3

外部リンク

ルーヴル美術館公式サイトの該当ページへのリンク'>ルーヴル美術館公式サイト、アルブレヒト・デューラー『自画像』フランス語
カトリック百科事典：デューラー
スターリング・アンド・フランシーヌ・クラーク美術研究所、「アルブレヒト・デューラーの奇妙な世界」。 2010年11月14日〜2011年3月13日
アザミの自画像に関する記事へのリンク'>アザミの自画像–西洋美術の偉大な作品に関する記事

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