臭素酸カリウム

臭素酸カリウム：性質、毒性、規制、そしてその歴史

臭素酸カリウム (KBrO3) は、カリウムの臭素酸塩である無機化合物です。強力な酸化作用を持つため、かつてはパンや魚肉練り製品などの食品改良剤として使用されていましたが、発がん性リスクが懸念され、世界各国でその使用は厳しく制限または禁止されています。本稿では、臭素酸カリウムの化学的性質、毒性、規制状況、そして歴史について詳細に解説します。

化学的性質

臭素酸カリウム自体は燃焼しません。しかし、強力な酸化剤として働き、他の物質を酸化させる性質を持っています。このため、危険物として分類され、取り扱いには注意が必要です。加熱すると分解し、有毒で腐食性の高い粉塵を発生します。また、炭素、リン、硫黄などの可燃性物質や還元性物質と激しく反応し、火災の危険性があります。

臭素酸カリウムは、熱した水酸化カリウム溶液中で臭素を反応させることで合成されます。この反応では、最初に次亜[[臭素酸]]イオンが生成されますが、高温の塩基性溶液中では不安定なため、速やかに臭化物イオンと臭素酸イオンに不均化します。この反応は、以下の化学式で表されます。

3BrO⁻(aq) → 2Br⁻(aq) + BrO₃⁻(aq)

毒性

臭素酸カリウムは有毒であり、発がん性も指摘されています。国際がん研究機関 (IARC) では、臭素酸カリウムを「グループ2B：ヒトに対しての発がん性の恐れがある」物質に分類しています。経口摂取すると、腎臓や中枢神経系に影響を与え、腎不全、呼吸器抑制、難聴などの症状を引き起こす可能性があります。

用途

臭素酸カリウムは、かつては食品添加物として、パン生地の改良剤や魚肉練り製品の増粘剤などに使用されていました。しかし、ラットにおける腎臓発がん性の報告を受け、多くの国で食品への使用が禁止または制限されています。

また、コールドパーマの第2剤としても使用されており、誤飲事故も発生しています。

各国の規制

イギリス (1990年)、ドイツ (1993年)、カナダ (1994年)、中国 (2005年) など多くの国で、食品への臭素酸カリウムの使用が禁止されています。アメリカ合衆国では全面禁止されていませんが、多くの州で、臭素酸カリウムを使用している食品にはその旨をパッケージに明記することが義務付けられています。

日本では、1982年のラット発がん性試験の結果を受け、パン以外の用途での使用は禁止され、パンへの使用も厳しく制限されています。その後、検出技術の向上や製パン技術の進歩に伴い、一部メーカーでは使用が再開されましたが、現在も使用を自粛する製パン業者も多く存在します。

歴史と社会問題

日本では、臭素酸カリウムの使用をめぐって様々な議論が展開されてきました。特に、ある時期には「山崎パンのカビが生えないのは臭素酸カリウムを使用しているから」といった誤解に基づく情報が拡散され、社会問題となりました。しかし、専門家からは、パンに残存する臭素酸カリウムの量は微量であり、防カビ効果があると考えるのは困難であるとの指摘があります。

まとめ

臭素酸カリウムは、その強力な酸化作用から様々な用途で使用されてきましたが、発がん性リスクが明らかになったことで、世界的にその使用は制限または禁止されています。近年では、代替技術の開発も進められており、将来的には完全に使用が廃止される方向に向かう可能性があります。本稿では、臭素酸カリウムに関する情報を網羅的に解説しましたが、常に最新の情報を参照し、安全な取り扱いと適切な情報に基づいた判断を行うことが重要です。

もう一度検索