舘粲児

舘 粲児（たち えいじ）

舘 粲児は、明治26年（1893年）に現在の石川県にあたる地域で生まれ、没年は定かではありません。日本の近代造園史において、特にゴルフ場設計の分野でその名を残す人物です。

経歴と宮内省での職務

造園の道を志した舘は、大正6年（1917年）に千葉県立高等園芸学校を卒業し、専門的な知識と技術を修得しました。翌大正7年（1918年）には宮内省内匠寮の匠生として奉職を開始します。内匠寮は皇室関連の施設や庭園、建築などを担当する部署であり、そこで彼は宮廷や御料地の造園実務に携わりました。

内匠寮でのキャリアを通じて、舘の役職は段階的に昇進しました。大正10年（1921年）には宮内技手補、そして昭和2年（1927年）には宮内技手となります。この間、彼は宮内庁が管轄する御料地の整備に関わり、特に6ホールのゴルフコースを建設したことは特筆されるべき業績の一つです。当時の日本においてゴルフは黎明期にあり、専門的な知識と技術を要するゴルフコースの設計・建設に携わることは、彼の造園家としての多様な能力を示すものです。

昭和11年（1936年）には北米への出張を経験しており、これは海外における造園技術やゴルフコースデザインの潮流を学ぶ貴重な機会であったと考えられます。さらに経験を積み重ねた結果、昭和17年（1942年）には宮内技師へと昇進しますが、同年中に宮内省を退職しました。退職の具体的な理由は不明ですが、第二次世界大戦中の緊迫した社会情勢も影響していた可能性があります。

戦後の活動と主な業績

宮内省を退いた後、特に第二次世界大戦終結からは、舘粲児はそのキャリアの重心をゴルフコースの造成事業へと移しました。戦後復興が進む中でゴルフというレジャーが普及し始め、新たなゴルフ場建設の需要が高まる中、彼はその専門性を活かして貢献しました。ゴルフ場の設計・建設は、単に芝生を管理するだけでなく、地形の読解、景観設計、排水計画など、高度な造園技術と土木技術の融合が求められる分野です。

また、彼はゴルフ場建設以外にも、観光地の開発に関わる調査や計画策定にも参画しています。この活動においては、田村剛、加藤誠平、吉村巌といった、当時の日本の国土計画や造園、観光開発分野で活躍した他の専門家たちと共に仕事をしました。彼らとの協働は、単なるゴルフ場設計に留まらない、より広範な国土利用や景観計画に対する彼の関心を示唆しています。

舘粲児の代表的な仕事として特に知られるのが、1960年（昭和35年）に富山県富山市三熊に開設された呉羽観光呉羽カントリークラブの設計です。このプロジェクトは、当時の日本における新しいゴルフ場開発の一例であり、彼はこの設計において竹村秀夫をはじめとする他の専門家とも協力して取り組みました。呉羽カントリークラブは、その後も多くのゴルファーに利用されるコースとして存続しており、彼の造園家としての技術とセンスを示す記念碑的な業績と言えます。

学術的貢献と参考文献

実践的な造園活動や設計業務に加え、舘粲児は学術的な面でも貢献を見せています。彼は造園に関する専門誌である「造園雑誌」に論文を寄稿しており、特に芝草に関する研究を行いました。昭和9年（1934年）2月号に掲載された「西洋芝の栽培に就いて」と、昭和11年（1936年）7月号に掲載された「再び西洋芝栽培に就いて」の二本の論文は、当時の日本において西洋芝の導入や栽培技術がまだ確立されていなかった時代背景を考えると、貴重な研究成果であったと言えます。これらの論文は、彼が現場での経験だけでなく、新しい植物材料や栽培技術にも深い関心を持っていたことを示しています。

舘粲児の業績、特に呉羽カントリークラブに関する情報は、同クラブの歴史をまとめた文献に詳しい記述が見られます。『呉羽の30年Ｉ 呉羽カントリークラブ』や『呉羽の二十年 呉羽カントリークラブ』（1980年発行）といった資料は、彼のゴルフ場設計における思想や具体的な仕事内容を知る上で重要な参考文献となります。

舘粲児は、宮内省での造園業務から戦後のゴルフ場設計、そして観光開発計画に至るまで、幅広い分野で活躍した造園家でした。特にゴルフ場設計においては、日本のこの分野の黎明期において重要な役割を果たした一人と言えるでしょう。

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