航空規制緩和法

アメリカ航空規制緩和法(ADA) - 自由市場化と航空業界の変貌

1978年、アメリカ合衆国で航空業界に大きな変革をもたらした航空規制緩和法(Airline Deregulation Act、ADA)が制定されました。本稿では、この法律の成立背景、内容、そして航空業界への影響について詳細に解説します。

規制緩和以前の航空業界

1938年の設立以来、[民間航空委員会]はアメリカの航空業界を厳しく規制していました。航空会社は、路線、運賃、スケジュールについてCABの承認を得なければならず、新規参入も困難でした。これは、航空旅行の促進を目的とした公共事業としての側面と、航空会社の収益を保護する側面が混在した結果でした。しかし、このシステムは非効率的で、官僚的で、革新を阻害するものでした。

航空会社は、新たな路線開設や運賃変更の申請に長期間を要し、承認されないことも珍しくありませんでした。例えば、ある航空会社は新規路線開設申請に6年以上を費やした末に却下されたという事例もあります。国際線についても、特定の航空会社に特定の路線が割り当てられており、競争は制限されていました。

規制緩和の背景

1970年代、石油危機やスタグフレーションによる経済環境の悪化、ワイドボディ機の登場などにより、既存の規制システムは大きな圧力にさらされました。高騰する運賃への不満が高まり、規制緩和を求める声が高まりました。経済学者や政治家からも、規制が非効率性とコスト上昇につながるとの指摘が長年されていました。

カーター政権は、規制緩和によって業界と顧客の双方に利益をもたらすと考え、新規参入や運賃に関する規制の撤廃、路線設定に関する規制の緩和を進めました。ニクソン政権時代から始まった、運輸業界における規制緩和の動きが、航空業界にも波及したのです。

ADAの内容と実施

ADAは、安全性の維持を前提に、競争促進、セカンダリー空港の活用促進、不当な寡占の防止などを目標としていました。1981年までに国内線と新サービスの制限を撤廃し、1983年までに国内線運賃の規制を終了することを目指しました。

具体的には、CABの運賃設定権限の段階的撤廃、CABの手続きの迅速化、新規航空会社設立基準の緩和、競合他社の未利用路線の引き継ぎ許可、アメリカ資本の国際航空会社による国内線サービス提供許可などが行われました。また、公共の利便性を理由とする路線差止めの証明責任がCABに課せられるなど、規制のあり方が大きく変化しました。

CABは1984年に解散し、残りの規制は運輸省(DOT)に引き継がれました。安全検査や航空交通管制は[連邦航空局]が引き続き担当することとなりました。

ADAの影響

ADAによる規制緩和は、航空業界に多大な影響を与えました。まず、運賃の低下が顕著に見られました。1996年の会計検査院報告書によると、1979年と比較して1994年の運賃は9%低下し、インフレ調整すると30%の低下となります。大型機の効率的な運用、路線の最適化などが要因として挙げられます。

しかし、競争激化により、多くの航空会社が倒産・清算しました。また、労働組合との対立も発生しました。ハブ空港の集中化も進み、小規模市場へのサービス提供は減る懸念がありましたが、実際には格安航空会社の成長などにより、この懸念は必ずしも現実化しませんでした。

ADAは、アメリカ航空業界を自由市場へと導き、競争と効率性を促進しました。しかし、同時に、企業の倒産や労働争議、ハブ空港の集中化などの問題も引き起こしました。これは、規制緩和がもたらす二面性を示すものです。現代の航空業界は、ADAによる規制緩和の大きな影響下にあるといえます。

もう一度検索