船橋鉄道

幻に終わった船橋鉄道計画

船橋鉄道は、大正時代初期に計画された、船橋駅と柏駅を結ぶ軽便鉄道の計画でした。この計画は、当時の鉄道網の拡大と地域経済の発展を目指すものでしたが、様々な要因が重なり、実現には至りませんでした。本稿では、船橋鉄道の計画発足から挫折までの経緯を詳細に解説します。

計画の背景

1910年代初頭、軽便鉄道法が制定され、各地で軽便鉄道の建設が盛んになりました。船橋鉄道もその流れの中で計画されたもので、国鉄総武線（現：総武本線）の船橋駅と国鉄常磐線（現：常磐線）の柏駅を結ぶ路線として計画されました。しかし、この計画は単なる鉄道建設に留まらず、背後には複雑な政治的、経済的な思惑が絡み合っていました。

計画の発足と頓挫

船橋鉄道の計画は、船橋町の商家や沿線の地主によって発起され、立憲政友会の地方政治家たちがこれを支援しました。当初の目的は、県営鉄道の経営改善のために、県営軽便鉄道野田線（現：東武野田線）を民間に払い下げ、その受け皿として船橋鉄道を設立することでした。しかし、この計画には当初から大きな問題がありました。それは、発起人と地元勢力、そして東京の技術者グループとの間の対立です。

1912年7月30日、船橋町の藤田栄一ら50名が発起人となり、船橋町と豊四季村柏の間を結ぶ軽便鉄道を出願しました。計画では、国鉄船橋駅を起点に、現在の東武野田線とは異なるルートで柏駅に至る予定でした。しかし、1914年1月27日、発起人のうち5人が藤田栄一の部理代人委任契約の解除を求めて届けを提出。同年4月27日には残りの発起人のうち4人が続きました。これに対し藤田栄一は発起人会を招集し、21人の脱退者と16人の除名者を議決しました。この騒動をきっかけに、船橋鉄道の計画は大きく揺らぎ始めました。

設立と内紛

1914年4月10日、船橋鉄道は免許を取得しましたが、その後の設立過程は混乱を極めました。資金調達や用地買収が難航する中、発起人たちの対立が表面化し、経営陣も二つに分裂しました。地元勢力は、建設工事の進捗を急ぐために、株式の架空払い込みや不正な支出を行いました。一方、東京の技術者グループは、これらの不正行為を告発し、対立はますます激化しました。1916年12月29日、社長の岡田耕平が辞任しましたが、実権は手放さず、事態はさらに悪化しました。

不正の発覚と破綻

1917年2月2日、東京派の取締役が、船橋鉄道の不正行為を新聞で暴露しました。この暴露により、船橋鉄道の経営は完全に破綻し、工事も中断。会社内部の対立もさらに激化しました。地元勢力は東京派取締役を解任しようとしましたが、東京派はそれを無効とする訴訟を起こし、法廷闘争にまで発展しました。

計画の終焉

このような混乱の中、船橋鉄道の計画は頓挫しました。1918年5月8日、政府は船橋鉄道の免許を失効させ、幻の鉄道計画は完全に幕を閉じました。その後、船橋鉄道に代わるものとして、北総鉄道（現在の東武野田線の前身）が計画されることになりました。

船橋鉄道の計画は、大正時代の鉄道建設の裏側に潜む、政治的、経済的な思惑、そして人間の欲望や対立を描き出した、歴史の一断面と言えるでしょう。

計画路線の詳細

船橋鉄道の計画路線は、国鉄船橋駅を起点とし、八栄村、鎌ケ谷村、風早村、土村、千代田村を経由して、豊四季村で国鉄常磐線を乗り越え、柏駅で県営野田線に接続するというものでした。現在の東武野田線とは異なり、東側にずれたルートとなっていました。軌道幅は狭軌（1067mm）を採用し、国鉄や県営鉄道との直通運転を考慮していました。

資金調達と工事の遅延

船橋鉄道の資本金は40万円で、本社は船橋町に置かれました。しかし、建設費のうち車両費の割合が少ないという指摘を受けました。収支概算書では、資本金に対し1割の純益が見込まれていましたが、実際には資金繰りに苦労しました。工事は1915年に八栄村高根から開始されましたが、地価の協定が難航し、白井市内の用地買収はほとんど進みませんでした。また、株式の第二回払込も未払いが続き、資金難に拍車がかかりました。

会社の分裂と不正

船橋鉄道は、東京派と地元派に分裂し、対立を深めました。東京派は、川島佐一を中心とし、地元派は、社長の岡田耕平を中心としていました。東京派は、地元派の不正を暴露し、船橋鉄道の経営は完全に破綻しました。地元派は、会社を立て直すために、東京派の取締役を解任しようとしましたが、東京派はそれを無効とする訴訟を起こし、事態は泥沼化しました。

免許失効と訴訟

工事が進まない中、1918年5月8日、船橋鉄道の免許は失効しました。その後、沿線の地主18名は、線路用地の代金を支払わずに工事を始めた船橋鉄道に対し、損害賠償請求の訴訟を起こしました。

船橋鉄道の教訓

船橋鉄道の計画は、鉄道建設の難しさを物語るとともに、地域開発における地元勢力と技術者グループの対立、そして不正行為が招く破滅的な結果を示唆しています。この幻の鉄道計画は、後世に多くの教訓を残したと言えるでしょう。

参考文献

佐藤信之「船橋鉄道の挫折と北総鉄道の開通まで」（『「船橋市史研究3』船橋史談会、1988年3月発行）

外部リンク

“大正に計画された船橋鉄道のルート”. 地図Z. 2010年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月8日閲覧。
* “幻の船橋鉄道を探る①～高根町”. norehero-19. 2023年4月8日閲覧。 推定経路を示す地図と築堤の遺構を撮した航空写真が掲載されている。

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