花山院

花山院（かさんのいん）

花山院は、平安京の左京一条四坊三町、現在の京都御苑の敷地内に位置していた広大な邸宅です。その歴史は古く、皇族や有力な公家、そして天皇ゆかりの地として、日本の歴史において重要な役割を果たしました。

邸宅の始まりと変遷

邸宅の起源は、清和天皇の皇子である貞保親王の邸宅であったと伝えられています。その後、時の権力者である藤原忠平の所有となり、彼の外曾孫にあたる憲平親王（後の冷泉天皇）の立太子礼という重要な儀式が、この邸宅で執り行われました。

花山天皇と名の由来

冷泉天皇の子である花山天皇は、寛和2年（986年）に出家した後、この邸宅を後院（上皇・法皇の御所）として使用するようになりました。そして、寛弘5年（1008年）、花山法皇がこの邸宅で崩御されました。これにより、法皇に「花山院」の追号が贈られ、邸宅名もこれにちなんで「花山院」と呼ばれるようになったとされています。

度重なる試練と復興

花山法皇の崩御後、邸宅には三条天皇の皇后である藤原娍子とその子息である敦儀親王らが一時的に居住しました。しかし、長和3年（1014年）に発生した火災により、邸宅は惜しくも焼失してしまいます。幸いにもその後再建され、藤原道長の嫡男である藤原頼通からその子である師実へと受け継がれました。後冷泉天皇の皇后であった藤原寛子もこの邸宅に住んだ時期があります。さらに、師実は邸宅を改築し、自身の同母兄である藤原定綱に譲渡しました。定綱はさらに、自身の娘婿でもある子息の藤原家忠にこの邸を譲りました。

花山院家の成立

藤原家忠は、この邸宅にちなんで「花山院」と称するようになり、その子孫は花山院流として繁栄しました。花山院家は、この邸宅を代々継承し、宗家としてこれを所領としました。これにより、邸宅は単なる住居を超え、特定の公家一族の拠点としての性格を強く帯びるようになります。

後醍醐天皇の幽閉

鎌倉幕府が滅亡し、建武の新政が崩壊した後、南朝の後醍醐天皇は、敵対する足利尊氏によってこの花山院に軟禁されるという歴史的な出来事がありました。『太平記』などの軍記物語には、天皇が邸宅の壊れた築地の部分から密かに脱出し、吉野へと向かったとする劇的な逸話が記されています。

邸宅の終焉と現在の名残

花山院は、その長い歴史の中で、度重なる火災に見舞われながらも、その都度復興され、貴族の邸宅として明治維新まで存続しました。しかし、明治元年（1868年）の東京への遷都に伴い、平安京以来の歴史的使命を終え、惜しくも取り壊されることとなりました。

なお、現在の京都御苑内に鎮座する宗像神社は、かつて花山院の邸宅内に祀られていた屋敷神であったと伝えられており、往時の名残をとどめています。

参考文献

* 五島邦治「花山院」（『平安時代史事典』角川書店、1994年）

この邸宅は、皇族、摂関家、そして特定の家系に受け継がれ、また歴史上の重要な出来事の舞台となるなど、日本の政治・文化史において見過ごすことのできない存在でした。

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