花月 (能)

能『花月』の概要

『花月』（かげつ）は、日本の伝統芸能である能の一曲で、特に遊狂物に分類されます。この作品は、京都の清水寺を舞台に、稚児花月と彼の父との再会を描写しています。しかし、単なる親子の愛情物語に留まらず、華やかな演技や個性的な表現が織り交ぜられています。

登場人物

シテ: 花月
ワキ: 諸国一見の僧（実は花月の父）
* アイ: 清水寺門前の人

作品の構成

物語は、清水寺を訪れたワキ（花月の父）が登場するところから始まります。彼は、元筑紫国英彦山出身の左衛門という僧侶で、7歳の息子が失踪したことが心の重荷となり、出家して諸国を巡り歩いていました。清水寺を訪れた折、寺男から「面白い遊芸をしている稚児がいる」と勧められ、その少年の舞を見ると、それが自分の息子花月だと気づく。その後、親子は再会し、互いの成長を喜びながら共に修行の道を歩むことになります。

解説

一般的な親子の邂逅物語では、親子の愛情や絆が中心テーマとされますが、『花月』はその側面がやや薄い作品です。作品全体を通じて、シテの華麗な芸や「芸尽くし」の要素が強調され、能の中でも特に視覚的に鮮やかな演出が施されています。

また、本作には中世の寺院における男性の稚児に対する愛情が反映されており、特に「小歌」に見られる謡の内容や演出には男色的要素が色濃く表れています。現代の上演では、シテ（花月）がアイの肩に手を添え、アイがシテの顔を扇で覆うという特異な演出が用いられ、能の中でも特異な場面が展開されています。しかし、すべての曲の細部において美少年趣味が溢れているわけではなく、花月を誘拐した天狗は、実際には人買いや山伏の比喩であるとも考えられています。

芸尽くし

『花月』では以下のような様々な演目が含まれています:

• - 花月の名乗り: 自らの名前にある「花」と「月」をテーマにし、様々なものに例えて天下の名僧であると宣言します。
• - 小歌: 室町時代の恋を題材にした歌謡が登場し、聴衆を魅了します。
• - 弓之段: 一度は鶯を狙うも、殺生戒の理由で行動を中断する場面が見られます。
• - 曲舞（くせまい）: 清水寺の縁起に関連する舞が展開されます。
• - 羯鼓舞: 天狗と共に山を巡った思い出を語り、各地の名山が登場します。

関連作品

『花月』に関連する他の能作品には、同じく喝食の芸尽くし物である『自然居士』や『東岸居士』、さらに清水寺の縁起が描かれた『田村』や『遊行柳』があります。

出典と参考文献

本作品に関する情報は、多くの研究や資料から得られています。特に平松隆円の研究論文「日本仏教における僧と稚児の男色」や、伊海孝充の『花月の「春の遊び」』に詳しい情報があります。また、能に関する資料も多く、専門家の解説を通じてその魅力を深く知ることができるでしょう。

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