花田陽一郎

花田 陽一郎（はなだ よういちろう、1915年9月6日 - 1966年4月24日）は、日本のプロボクシング史に名を刻む名選手です。戦前から戦後にかけて活躍し、日本フライ級およびバンタム級の二階級を制覇しました。

アマチュアでキャリアを積んだ後、プロへ転向した花田は、デビュー翌年の1934年に伊藤勇に判定勝利を収め、全日本フライ級王座を獲得しました。このタイトルは、後の世界王者となる白井義男に敗れる1949年まで、実に15年間保持するという驚異的な記録となりました。ただし、この期間には戦時下での活動中断期間が含まれており、公式防衛は一度に留まっています。戦後も現役を続け、1948年には堀口宏を破り、日本バンタム級王座も獲得。二階級制覇を達成しました。

花田は、その素早い動きと軽快なフットワークから「今牛若丸」の異名で呼ばれました。戦前派ボクサーの代表的な存在であり、その巧みな技術は対戦相手が「まるで背後から打たれたようだ」と形容するほどでした。しかし、約20年の現役生活で挙げた93勝のうち、ノックアウト勝ちはわずかに1度（TKO）のみという特異な記録も残しています。これは、彼が右手の指の一部を欠損していた身体的なハンディキャップが影響したためと伝えられています。それでも、時には自身より大きな重量級の選手とも戦う剛胆さも持ち合わせていました。

花田のキャリアにおいて、最大の注目を集めたのが白井義男との二度にわたる対戦です。1947年の初対戦では花田が圧勝しましたが、1949年1月に行われた二度目の対戦は、日本のボクシング史における重要な転換点となりました。アルビン・R・カーン博士の指導で近代ボクシングの技術を身につけ、最高のコンディションで臨んだ白井に対し、万全ではなかったとされる花田には、もはや対抗する術がありませんでした。白井の正確な攻撃を受け続けた花田は、第5ラウンドに強烈な左ボディアッパーを浴び、キャンバスに沈んで敗れました。カーン博士の指導を受けた白井と、戦前からの技巧派である花田。この一戦は、日本のボクシングが近代化へと踏み出す象徴とされ、花田に代表される旧来の「拳豪」たちの時代が幕を閉じた瞬間とも評されています。

白井戦後もリングに上がり続けましたが、1953年2月7日、勝又澄雄戦でのTKO負けを最後に現役を引退しました。プロ通算成績は163戦93勝（1TKO）37敗27引き分けなど。

引退後はボクシング界から離れて静かに過ごしたようで、1966年4月24日、脳出血のため50歳でその生涯を終えました。花田陽一郎は、激動の時代を生き抜き、その卓越した技術と記録、そして白井義男との歴史的な一戦によって、日本のプロボクシング史に確固たる地位を占める選手です。

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