芸術の幼年期

ジャン＝リュック・ゴダールとアンヌ＝マリー・ミエヴィルが共同監督を務めた短編映画『芸術の幼年期』（原題：L'enfance de l'art）は、1990年に公開されたオムニバス映画『子どもたちはどうしているか』（How Are The Kids?）に収録されています。ベルギーとスイスが共同制作した本作は、ユニセフ（国際連合児童基金）の製作によるものです。

ゴダールとミエヴィルは、1990年の夏、スイスのフランス語圏地域で本作のロケーション撮影を行いました。映画は、ゴダール自身の作品『カラビニエ』（1963年）の原案を書いたロベルト・ロッセリーニに捧げられています。『カラビニエ』と本作には共通点が見られます。どちらも廃墟を舞台とし、兵士が絵はがきを所持している点、そして終始銃声が聞こえる緊張感などです。『カラビニエ』で青年たちが戦争で得た富を誇示する様子は、本作でも絵はがきという形で象徴的に表現されています。

『子どもたちはどうしているか』には、ゴダールとミエヴィルの作品以外にも、リノ・ブロッカ、ロラン・ビコフ、ユーザン・パルシー、シロ・デュラン、ジェリー・ルイスといった著名な監督の作品が収録されています。それぞれの作品が、世界各地の子どもたちの現状や問題を多様な視点から描き出しています。

『芸術の幼年期』の物語は、内戦下の廃墟で暮らす人々を描いています。一人の女性が、少年にヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を読み聞かせます。そこに、カービン銃を持ったゲリラ兵士が、女性の恋人として登場します。

場面は変わり、バズーカ砲を構えた兵士が、ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』など複数枚の絵はがきを手にしています。兵士は絵はがきの裏に、「すべての暴君たち、もっとも恐ろしいものは、この…」と書き込みます。この行為は、戦争の残酷さと、権力者による支配に対する抵抗の象徴として解釈できます。

やがて兵士は撃たれ、死んでしまいます。少年たちは、兵士の死を目の当たりにします。そして、兵士が持っていた絵はがきは、女性から少年たちに手渡されます。少年たちは絵はがきを分け合い、未来への希望を繋ぐかのような印象を与えます。

映画の最後に表示される「戦争に行かない権利」「教育への権利」という2つの黒字幕は、本作が訴えかけるメッセージを端的に示しています。戦争の悲惨さと、子どもたちが教育を受ける権利の重要性を改めて認識させられます。

『芸術の幼年期』は、ゴダールとミエヴィルの卓越した映像表現と、複雑なテーマの提示によって、観る者に強い印象を与えます。廃墟という舞台設定、絵はがきという象徴的な小道具、そして『レ・ミゼラブル』からの引用など、多様な要素が絡み合い、戦争と平和、教育の権利といった普遍的な問題を問いかける、深い意味を持つ作品となっています。ゴダール作品に共通する政治的メッセージと、人間の感情の繊細な描写が調和した、見応えのある短編映画です。音楽はパウル・ヒンデミットとメレディス・モンクが担当しています。撮影はソフィ・マンティニューとエルベ・デューが担当しました。プロデューサーはルート・ヴァルトブルゲール、制作はC9 コミュニカシオンとヴェガ・フィルムが担当し、国際連合児童基金が製作に関わっています。

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