芸術断想

芸術断想

概要

『芸術断想』は、三島由紀夫が執筆した評論・随筆の集成であり、彼が体験した多様な芸術形態に対する考察が収められています。この作品は、能、歌舞伎、戯曲、映画、オペラ、バレエなど、幅広いジャンルにわたる芸術作品についての彼の批評とその背景にある芸術論を展開しています。時には厳しい視点から、俳優や演出の良し悪しを鋭く批判していることが特徴です。特に、劇場に通う観客や劇評家の心境を掘り下げ、彼らの受動的な観劇体験の中に潜む問題を考察しています。

発表経過

この作品は1963年から1964年にかけて雑誌『芸術生活』に連載され、1965年には単行本として集英社から刊行されました。初版では「目――ある芸術断想」というタイトルが付けられ、以降、この作品を通じて多くの研究や評価がなされています。

内容

本書は、全10章から成り立っており、各章には様々な劇場体験や映画鑑賞に関する考察が断片的にまとめられています。具体的な章の内容は次の通りです。

舞台のさまざま

三島の観察が反映されているこの章では、銕仙会による能《大原御幸》やパリ・オペラ座のバレエ《フェードル》など、多様な舞台作品の感想が交わされています。

群集劇の宿命

舞台芸術の想像力について語り、文学座アトリエ公演の作品を例にしています。歌舞伎や現代戯曲についての考察を通じて、芸術の本質を追求しています。

期待と失望

この章では、俳優や舞台作品についての独自の見解が展開され、三島が感じた期待と失望の感情が丁寧に描写されています。

その後も『三流の知性』や『英雄の病理学』といった章を通じて、彼の深い洞察や批評が詰め込まれています。これらの章において、三島は自身の芸術に対する葛藤や矛盾を探求しています。

評価・研究

三島由紀夫の『芸術断想』は、彼の独特な視点から展開される様々な芸術批評の集大成です。彼の批評の根底には、能と歌舞伎に対する明確な対比があり、特に歌舞伎に対しては批判的な見解が表れています。今村忠純は、三島がオペラ台本と音楽とのバランスを研究し、良い戯曲の本質を探求したことに言及しています。田中美代子は三島を「芸術と命のやりとりをしていた時代の、最後の巨人」と形容し、彼の執筆活動における独自性を評価しています。

おもな収録刊行本

『目――ある芸術断想』に加えて、文庫版や全集としてもより深く三島由紀夫の考えに触れることができます。さらに、多くの研究が行われており、その考察は今もなお新たな視点を提供し続けています。

『芸術断想』は単なる評論にとどまらず、三島由紀夫の芸術観や彼自身の内面的葛藤を映し出す重要な作品です。

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