若い人 (1977年の映画)

映画『若い人』（1977年版）解説

1977年に公開された日本映画『若い人』は、作家・石坂洋次郎が手がけた同名小説を原作としています。東宝とサンミュージックの提携により制作され、河崎義祐がメガホンを取りました。本作は、当時の人気アイドルであった桜田淳子の単独主演第3作目にあたり、文学作品の世界で新たな一面を見せた作品として注目されました。

物語の舞台は、海辺の町にあるミッションスクール。新任教師と生徒たちが織りなす青春群像が描かれます。多感な生徒たちの揺れ動く心や、彼らを取り巻く教師たちの葛藤を通じて、若者たちの「青い」感性や成長の過程を丁寧に追いかけます。特に、複雑な家庭環境や反抗的な態度を見せながらも、根は純粋な主人公・江波恵子と、彼女の才能を見抜き導こうとする間崎教師の関係性が物語の軸となります。

主要キャストとして、主人公・江波恵子を桜田淳子が演じました。そして、新任教師・間崎慎太郎には小野寺昭、恵子の友人である橋本スミ子に三林京子、恵子の母・江波ハツに左幸子、厳格な体育教師・江口健吉に室田日出男といった実力派俳優陣が名を連ねています。さらに特筆すべきは、1962年に公開された日活版で同じ江波恵子役を演じた吉永小百合が、鮎沢由紀役として特別出演している点です。これは、新旧の「若い人」を象徴する貴重な共演として話題となりました。

製作陣には、監督の河崎義祐をはじめ、製作の津島平吉、茂木大輔、企画の相澤秀禎、北島宗人、脚本の長野洋、音楽の竹村次郎、撮影の逢沢譲らが名を連ねています。

主題歌は主演の桜田淳子が歌う「若い人のテーマ」で、作詞は阿久悠、作曲は森田公一、編曲は青木望が担当しました。この曲は、1977年にヒットしたシングル「気まぐれヴィーナス」のB面に収録されています。

本作の製作発表会見は、1976年12月8日に東京の赤坂プリンスホテルで行われました。会見には原作者の石坂洋次郎（当時76歳）をはじめ、プロデューサー、監督、主演の小野寺昭らが出席しましたが、桜田淳子本人は学期末試験のため、やや遅れての参加となりました。石坂洋次郎が自身の高齢に関するユーモラスな話を披露する中、小野寺昭は「間崎先生は魅力的な役だが、平凡な自分がどこまで演じられるか」と謙虚な発言をしました。しかし、遅れて登場した桜田淳子は、初の文芸作品出演への意気込みや、吉永小百合主演の旧作を見て自信を得たこと、そして恵子という役柄を「不良に見えて善良な女性」と分析し、「実と虚の中に今度の恵子を演じたい」と語るなど、その大人びたプロフェッショナルな発言で、詰めかけた映画ジャーナリストたちを大いに驚かせました。会見では、翌1977年1月中旬のクランクイン、同年ゴールデンウイーク公開という予定も発表されました。会見後には、桜田が映画で着用するセーラー服に改めて着替え、写真撮影に応じる一幕もありました。

撮影は東宝スタジオを中心に、長崎の活水女子短期大学やめがね橋、東京の原宿、赤坂東急ホテル、渋谷山手教会などで行われました。特に活水女子短期大学でのロケ時には、桜田淳子が出演していた「コメッコ」のテレビCM撮影も同時に行われ、共演者の小野寺昭も参加しています。撮影中の東宝スタジオには、原作者の石坂洋次郎に加え、過去の映画化作品を手がけた1937年版監督の豊田四郎と1952年版監督の市川崑が同じ日に訪れるという出来事もありました。特に市川崑監督は桜田の演技に感心し、その後の市川監督作品『病院坂の首縊りの家』（1979年）への桜田の出演につながったと言われています。作品の舞台は長崎の港町に設定されていますが、長崎弁は学校用務員の短いセリフに留まり、物語の進行はほぼ標準語で行われます。

本作の公開時のキャッチコピーは「私は、男を知りたい― そして 愛が ただ通り過ぎて 行くものだけなのかを……」という、思春期の揺れる心を表現したものでした。また、同時上映は三浦友和と檀ふみが出演する西村潔監督作品『青年の樹』でした。

『若い人』（1977年版）は、人気アイドルが文芸作品の主演に挑んだ意欲作として、当時の映画界において一つの話題を提供しました。特に製作発表会見での桜田淳子の発言や、市川崑監督との交流エピソードは、後の彼女の女優活動を語る上でも重要な出来事となっています。

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