英国作曲家協会

英国作曲家協会（Society of British Composers）

英国作曲家協会は、1905年にイギリスで設立された音楽団体です。その目的は、国内の作曲家たちが抱える様々な問題、特に自身の作品の出版や演奏機会の獲得における困難を解消し、彼らの活動を支援することにありました。設立からわずか13年後の1918年に解体され、その活動は短期間に終わりました。

設立の背景

19世紀末から20世紀初頭にかけて、イギリスの音楽界では新しい世代の作曲家たちが台頭し始めていましたが、彼らが専門的なキャリアを築く上で大きな障壁が存在しました。特に、王立音楽アカデミーのような権威ある機関で学び、優れた才能を示したにもかかわらず、卒業後に自身の楽曲を商業的に出版したり、広く演奏される機会を得たりすることが極めて難しい状況でした。これは、当時の音楽出版市場の構造や、演奏会のプログラム編成における慣習など、様々な要因が複合的に影響していたと考えられます。

こうした状況の深刻さが広く認識されるきっかけの一つとなったのが、若手作曲家であったベンジャミン・デイルの事例です。彼が作曲した野心的な作品である「ピアノソナタ ニ短調」は、約60ページにも及ぶ規模を持つ力作でしたが、その商業出版において大きな問題に直面しました。この出来事は、当時の若手作曲家がいかに困難な状況に置かれていたかを象徴しており、音楽界における自助努力の必要性が叫ばれることとなりました。

協会の設立と初期の活動

このような背景のもと、フレデリック・コーダー、ジョン・ブラックウッド・マキュアン、トバイアス・マッセイといった、王立音楽アカデミーに縁のある音楽家たちが中心となり、現状を打開するための組織設立へと動き出しました。彼らは、作曲家たちの利益を保護し、作品の出版、宣伝、そして演奏の機会を積極的に増進することを目的として、英国作曲家協会を立ち上げたのです。

設立後、協会はフレデリック・コーダーを初代議長に迎え、具体的な活動を開始しました。その最も重要な柱の一つは、自身の出版事業でした。協会は「Charles Avison, Ltd.」という独自の出版社名義を設け、この名義のもとで楽譜を出版することで、会員である作曲家たちの作品を世に送り出す体制を構築しました。設立の契機ともなったベンジャミン・デイルのピアノソナタは、協会が発行した初年度の年報に掲載される形で、このCharles Avison, Ltd.名義によって出版された最初の作品の一つとなりました。

出版事業の展開と会員資格

協会の出版活動は、「演奏可能な作品」を選定するという明確な方針のもとで進められました。単に作品を印刷するだけでなく、実際に音楽家によって演奏され、聴衆に届けられる可能性の高い作品を選び出すことに重点を置いたと考えられます。Charles Avison, Ltd.という名義は用いられましたが、実際の楽譜の印刷作業は外部の専門業者に委託されていました。初期にはドイツの大手出版社であるブライトコプフ・ウント・ヘルテル社がその役割を担っていましたが、後にイギリス国内のCary社、そして最終的には当時英国最大の音楽出版社の一つであったノヴェロ社（Novello & Co）へと、委託先は変遷していきました。

協会の会員資格に関しては、設立当初は男性作曲家に限定されていましたが、時代が進むにつれてその門戸は開かれました。1914年には女性作曲家や音楽家も協会の会員として活動に参加することが認められるようになり、多様性への配慮が進められました。

英国作曲家協会は、作曲家支援を目的とした重要な試みでしたが、活動期間は短く、1918年に解体されることとなりました。しかし、短期間ながらも、当時の作曲家が直面していた困難に対して具体的な行動を起こし、特に作品の出版という面で一定の役割を果たしたと言えるでしょう。その歴史は、20世紀初頭のイギリス音楽界における作曲家たちの苦闘と、それを乗り越えようとする努力の一端を示しています。

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