ベンジャミン・デイル

ベンジャミン・ジェイムズ・デイル（Benjamin James Dale）は、1885年7月17日にロンドンで生まれ、1943年7月30日に同地で生涯を閉じた、イギリスの作曲家であり教育者です。

彼は幼い頃から音楽の才能を示し、英国王立音楽院で作曲を学びました。特にフレデリック・コーダーに師事し、早くから多くの賞を受賞するなど、将来を期待される存在でした。しかし、様々な要因、特に後述する第一次世界大戦中の抑留経験などが影響し、彼の持つ作曲の才能が最大限に発揮される機会は限られました。今日、彼の作品がコンサートで演奏される機会は多くありませんが、録音物などを通じてその音楽が紹介され、再評価しようとする試みが継続されています。

デイルの最初期の作品として知られるものに、14歳の時にトーマス・マコーリー男爵の詩に触発されて書かれた演奏会用序曲《ホラティウス》（1899年）があります。

彼の名を広く知らしめたのは、1902年に作曲され、最初に楽譜が出版された《ピアノ・ソナタ ニ短調》（作品1）です。この作品は、現在でもベンジャミン・デイルの代表作と見なされています。構成は、ソナタ形式の第1楽章、変奏曲形式による緩やかな第2楽章、スケルツォ楽章、終楽章の4つの楽章から成ります。音楽スタイルは後期ロマン派に位置づけられ、フランツ・リストやロベルト・シューマン、ミリイ・バラキレフといった作曲家たちの影響が随所にうかがえます。このソナタは、同時代の著名なピアニストであるヨーク・ボウエンやマイラ・ヘスらによって頻繁に演奏され、高い評価を得ました。

ヴィオラ奏者ライオネル・ターティスのために書かれた作品も、デイルの重要なレパートリーの一つです。1906年には《ヴィオラとピアノのための組曲》ニ短調（作品2）を作曲しました。この組曲の後半2楽章は後に管弦楽に編曲され、ターティスによって度々演奏されました。その他にも、1909年には《ヴィオラとピアノのための幻想曲》ニ長調（作品4）、1911年にはターティスの弟子たちのために《6つのヴィオラのための序奏とアンダンテ》（作品5）を書いています。また、1912年には、作曲者自身による《オルガンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック》（1904年）がヘンリー・ウッドの指揮で上演されました。

不幸なことに、デイルは第一次世界大戦中にドイツに滞在していた際、開戦によってベルリン近郊のルーレーベン捕虜収容所に抑留されることとなりました。収容所内では、捕虜たちが自主的に様々な活動を行っており、音楽活動もその一つでした。後にトロント交響楽団の指揮者となるカナダ人の音楽家アーネスト・マクミランも同じ収容所に収容されており、デイルはマクミランと共にベートーヴェンの交響曲についての講座を開いたり、4手用のピアノ編曲版でこれらの交響曲を演奏したりするなど、音楽を通じて過酷な環境を乗り越えようとしました。

第一次世界大戦後、デイルは健康上の問題を抱えていたものの、精力的に活動を再開しました。英国音楽学校連合委員会の審査官として世界各地を巡り、オーストラリアやニュージーランドなど遠隔地への訪問も行いました。また、作曲活動を続ける傍ら、母校である英国王立音楽院で和声学の教授を務め、後には院長に就任するなど、教育者としても大きな貢献をしました。さらに、BBCの音楽諮問委員会の委員も務め、イギリス音楽界の発展に尽力しました。

戦後に書かれた主な作品としては、《ヴァイオリン・ソナタ》ホ長調（作品11、1921年～1922年）、祝典アンセム《誉め歌（A Song of Praise）》（作品12、1923年）、クリスマスの讃美歌《星たちが色褪せる前に（Before the Paling of the Stars）》（1912年作曲、後に合唱と管弦楽のために編曲）などがあります。特に《ヴァイオリンとピアノのためのバラード》ハ短調（作品15、1926年）は、発表当時から人気を博しました。

彼の作曲家としてのキャリアにおける最後の主要な作品は、1924年に着手され、1943年に完成した管弦楽曲《上げ潮（The Flowing Tide）》です。この作品は、クロード・ドビュッシーを思わせるような印象主義的な色彩感と、彼が初期から得意としたロマン派音楽の要素が融合した、デイル晩年の様式を示す楽曲となっています。

ベンジャミン・ジェイムズ・デイルは、若き日の類まれな才能、戦争による予期せぬ試練、そして教育・行政分野での多大な貢献という、波乱と実りの両面を持つ生涯を送りました。彼の残した作品、特に《ピアノ・ソナタ》やヴィオラ作品などは、イギリス音楽史における一つの個性として、現在も静かに再評価の動きが続いています。

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