英雄の証明 (2021年の映画)

イランの巨匠アスガル・ファルハーディー監督が贈る、人間の尊厳と社会の矛盾を描いた傑作『英雄の証明』

アスガル・ファルハーディー監督は、イランを代表する映画監督の一人であり、数々の国際的な賞を受賞していることで知られています。彼の作品は、社会問題や人間の葛藤を繊細かつ鋭く描き出し、世界中の観客を魅了してきました。

『英雄の証明』は、そんなファルハーディー監督の最新作であり、2021年7月に第74回カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得、第94回アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた注目作です。イランの地方都市シラーズを舞台に、服役囚であるラヒムの運命の逆転劇が描かれています。

ラヒムは、前妻の父から借りた金を返せず服役していました。刑務所での一時帰宅許可中に、恋人ファルコンデが拾った金貨を売って借金を返済しようとしますが、思ったほど高値が付かず、計画は頓挫します。それでも、ラヒムは正直に金貨を落とし主に返します。

この善行がマスコミに取り上げられ、ラヒムは「正直者の囚人」として一躍英雄に祭り上げられます。刑務所は、近年の囚人の自殺問題を受けて、社会的な名誉回復を必要としており、ラヒムの善行はまさに願ったり叶ったりだったのです。

一時帰宅が許可され、彼はチャリティ団体から表彰され、多額の寄付金を得て、出所後の仕事まで決まります。しかし、彼の美談は、何者かからの密告によって「作り話」だと非難されることになります。

「金貨の美談は作り話だ」という通報を受け、ラヒムは真実を証明するために奔走します。しかし、落とし主の女性を探しても見つからず、恋人を偽の落とし主として仕立て上げようとしますが、うまくいきません。担当者は、落とし主の夫も連れてくるよう要求し、ラヒムは怒りの中で就職の内定を蹴ってしまいます。

密告者が前妻の父だと疑ったラヒムは、彼に詰め寄り、殴り合いになります。その様子は動画に撮影され、拡散され、ラヒムの美談は完全に台無しになってしまいます。寄付金は他の囚人に回され、釈放の希望も失われます。

絶望するラヒムに、刑務所の職員タヘリは、動画で世間に無実を訴えるよう持ちかけます。しかし、それは、吃音症のラヒムの幼い息子に無理やり証言させるという、残酷な提案でした。ラヒムはそれを拒否し、残りの刑期を服役することにします。

この映画は、一見単純なストーリーですが、社会の不平等や人間の弱さ、そして善意と悪意の複雑な絡み合いを巧みに描いています。ラヒムの行動は、彼自身の生き方だけでなく、イラン社会の歪みも映し出しています。

監督のアスガル・ファルハーディーは、緻密な脚本と優れた演出で、観客に考えさせる余地を与えてくれます。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞という評価は、この映画の質の高さを証明していると言えるでしょう。

『英雄の証明』は、単なる感動的な物語ではなく、人間の尊厳と社会の矛盾について深く考えさせられる、力強い作品です。ぜひ、ご覧になってみてください。

キャスト

ラヒム・ソルタニ役：アミール・ジャディディ
ファルコンデ役：サハル・ゴルデュースト
バーラム役：モーセン・タナバンデ
ラドメヘル夫人役：フェレシュテー・サドル・オーファン
* ナザニン役：サリナ・ファルハーディー

製作と公開

映画の製作はイランのシーラーズで行われ、Amazonスタジオがアメリカでの配給権を獲得しました。2021年7月にはカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、2022年には日本でも公開されました。

評価

Rotten Tomatoesでは95%の高支持率を獲得し、批評家からも高く評価されています。Metacriticでも高い評価を得ており、その質の高さが認められています。

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