茜部荘

茜部荘（あかなべのしょう）

茜部荘は、日本の平安時代から室町時代にかけて、美濃国厚見郡に存在した荘園です。現在の岐阜県岐阜市南部に位置する茜部地区、特に茜部大野、茜部中島、茜部菱野、茜部新所、茜部寺屋敷といった地域がその中心であったと考えられています。この荘園は奈良の有力寺院である東大寺の所領であり、もとは厚見荘という名称でしたが、天徳4年（960年）に茜部荘へと改称されました。

所在地と規模

荘園の中心地は、現在の岐阜県岐阜市茜部地区にあたります。過去の記録によれば、その規模は弘仁9年（818年）には107町339歩という広さを持っていました。また、時代が下った久安3年（1147年）の文書では、主要な田地である本田だけでも77町余りが記録されており、かなりの規模を持つ荘園であったことがうかがえます。

成立の経緯

茜部荘の起源は複雑です。まず、天平勝宝2年（750年）の東大寺の記録には、尾張国中島郡に「茜部郷」という郷が存在し、この郷から東大寺へ物品が納められていたことが記されています。これは、後の茜部荘の名称の由来や、東大寺との関わりの古さを示すものと考えられます。

一方、茜部荘の前身である「厚見荘」は、もともと桓武天皇が定めた勅旨田（ちょくしでん）、すなわち天皇直轄の墾田を起源としています。大同4年（809年）2月21日に厚見荘として立荘されました。この勅旨田は桓武天皇から皇女である朝原内親王へ譲渡されましたが、弘仁9年（818年）3月27日、朝原内親王の遺命により、その母である酒人内親王によって弘仁3年（812年）に奈良の東大寺へと寄進されたと伝えられています。これにより、厚見荘は東大寺の重要な荘園となりました。

その後、貞観8年（866年）に起きた広野川事件のような出来事を経て、かつて尾張国にあった茜部郷が、美濃国の厚見郡（厚見荘）へと編入されたと考えられています。そして、天徳4年（960年）には、厚見荘が茜部荘と名を改め、両者が統合されたものとみられています。

支配と終焉

東大寺の荘園として運営されていた茜部荘でしたが、鎌倉時代に入ると支配構造に変化が生じます。源頼朝の側近であった大江広元の子、長井時広がこの地の地頭に任じられたのです。長井氏は代々地頭職を相続し、次第に荘園内での影響力を強めていきました。地頭は荘園領主である東大寺と対立し、土地の管理や年貢の取り分などを巡って訴訟を繰り返しながら勢力を拡大していったと記録されています。

南北朝時代になると、後醍醐天皇が一時的に荘園を没収し、再び東大寺へ寄進するという事態も発生しました。これは、天皇が寺社勢力を味方につけるための政策の一環であったと考えられます。しかし、その後も地頭の勢力は完全に衰えることはなく、応仁の乱（1467年開始）の頃までには、茜部荘は完全に東大寺の支配から離れてしまったようです。戦乱の時代を経て、荘園としての機能は失われ、15世紀後半にはその歴史に終止符を打ったとされています。

備考

茜部荘から東大寺へ納められる年貢は、主に絹や綿といった形で納められていました。これは、東大寺の僧侶たちの衣服を調達するための「衣服料」に充てられていたためです。荘園からの収入が具体的な寺院の維持費用に充当されていたことが分かります。

茜部荘の歴史は、古代の勅旨田から中世の荘園へと変遷し、寺院と武士（地頭）の支配権争いを経て、戦乱の中で消滅していった、日本の荘園制度の典型的な姿を示していると言えるでしょう。

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