荒神橋事件

荒神橋事件：京大生と警官隊の衝突

1953年11月11日、京都市内の荒神橋で発生した荒神橋事件は、京都大学の学生デモ隊と京都市警が衝突した事件です。この事件は、当時の大学を取り巻く社会情勢や学生運動、そして学園の自治を巡る問題が複雑に絡み合って発生しました。

事件の背景

1953年当時、日本の大学は第二次世界大戦の被害からの復興途上にあり、朝鮮戦争の影響による財政難から、教育環境は非常に厳しい状況でした。また、レッドパージなど国家による介入により、大学の自治も大きく制約を受けていました。

このような状況下、全学連中央委員会は「教授、職員学生の団結によって明るい学園を復興しよう」というスローガンを掲げ、「学園復興会議」を開催することを決定しました。会議は京都大学、同志社大学、立命館大学の3大学を会場に、5日間の日程で行われる予定でした。

しかし、京都大学では、大学当局（服部峻治郎学長）が会場として予定されていた法経一番教室の使用を認めず、警官隊を導入して抗議する学生を排除するなど、当局と学生自治会である同学会との間に緊張感が漂っていました。

同時期には、戦没学生を記念して製作された「わだつみ像」の受け入れ先が決まっていませんでした。当初は東京大学での建立が予定されていましたが、大学当局の拒否により実現しませんでした。その後、末川博総長らの尽力により、立命館大学に受け入れられることが決定し、建立されることになりました。

事件の発生

学園復興会議の4日目である11月11日、「わだつみ像」が立命館大学に到着し、市内では像を先頭にした歓迎デモが行われていました。同じ日、京都大学の学生たちは、会場使用を拒否した大学への抗議行動を終えた後、「わだつみ像」歓迎のデモと、立命館大学で開催中の復興会議に参加するため、約100名がデモ隊列を組んで荒神橋を渡ろうとしました。

しかし、京都市警はこれを「不法デモ」とみなし、午後4時45分頃、デモ隊の渡橋を阻止しました。これにより、学生ともみ合いになり、橋の南側欄干が倒れ、最前列にいた学生15名が浅瀬に落下し、うち7名が頭蓋骨折や骨盤骨折などの重軽傷を負いました。

抗議行動と弾圧

他の学生たちは立命館大学での会議に参加しましたが、会議は市警当局に対する抗議集会に切り替えられ、市警本部に対する抗議デモが決議されました。600名に上るデモ隊は夜9時頃、市警本部に向かい、玄関前で抗議集会を開始しましたが、催涙弾などで強制排除されました。その後、再び集合して抗議団を編成し、市警本部長に面会を要求しようとしましたが、警官隊が学生たちに襲いかかり、学生側は後頭部を割られるなど、重軽傷者70名を出す事態となりました。

学生の処分

京都大学当局も学生の抗議行動に対し強硬な態度で臨みました。11月17日には、本部棟で抗議の座り込みを行った学生に対し、警官隊を導入して排除しました。また、同学会による無期限ストライキが決議されると、大学当局は無期限ストは学長の告示に違反するとして、同学会および吉田分校自治会の役員6名に無期停学などの処分を下しました。

最も重い処分となったのは、同学会中央執行委員として学園復興会議の開催に奔走していた松浦玲で、退学より重い放学処分となりました。松浦は当時、京都大学寄宿舎の舎生であり、寄宿舎は処分に反対して松浦を引き続き在舎させようとしましたが、大学当局は寄宿舎に圧力をかけて松浦を退舎させました。以後、寄宿舎は寮生の入退寮権を含む自治権の拡大を目指して、大学当局と繰り返し衝突するようになりました。

訴訟

被害者は京都市を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こし、勝訴しました。1959年10月、京都市は地裁判決に従い、総額27万円の損害賠償金を支払いました。

荒神橋事件は、戦後の大学における学生運動と学園自治の問題を象徴する事件として、歴史に刻まれています。

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