莫栄新

莫栄新（ばく えいしん）は、清朝末期から中華民国初期にかけて活躍した軍人です。字（あざな）は日初といい、旧桂系（きゅうけいけい、広西派とも呼ばれる軍閥）に所属していました。彼の人生は、激動の時代を象徴するかのようです。

幼少の頃は学問に励んでいましたが、成長するにつれて農民や雑貨店の店員など、様々な職業を経験しました。しかし、1871年（同治10年）に軍隊に入隊すると、その後の人生は軍人として歩むことになります。広西巡防営（広西省の治安維持部隊）で着実に昇進を重ね、1909年（宣統元年）には広西巡防営幇統（部隊長）となり、梧州（ごしゅう）に駐屯しました。

1911年（宣統3年）6月、陸栄廷（りく えいてい）が広西提督（広西省の軍司令官）に昇進すると、莫栄新は巡防栄督帯（巡防営の監督官）に昇進しました。同年、辛亥革命が勃発すると、莫は慶遠府長（けいえんふちょう）に任じられました。これは、革命の混乱期における地方行政を担う重要な役職でした。

中華民国成立後の1912年（民国元年）5月、莫栄新は陸栄廷から梧州府長兼梧州関監督（梧州の行政長官と税関長を兼任）に任命されます。この頃から、彼は地方行政と財政の両面で手腕を発揮し始めました。その後まもなく、広西中区第1正司令（広西省中部の軍司令官）に任命されると、軍人としての地位をさらに確立していきます。

1914年（民国3年）には、広西陸軍第1師第2旅旅長兼蒼梧道道尹（広西陸軍第1師団の第2旅団長と蒼梧道の行政長官を兼任）に任命されました。これは、彼が軍事的にも行政的にも重要なポストを担うようになったことを示しています。1915年（民国4年）9月には、桂平鎮守使（桂平の守備隊司令官）に任命され、同年12月には袁世凱（えん せいがい）が皇帝に即位すると二等男爵に封じられました。

1916年（民国5年）、陸栄廷が護国戦争（第三革命）に呼応し、5月に肇慶（ちょうけい）で護国軍両広都司令部が成立すると、莫は護国軍第3師師長兼肇慶衛戍司令（護国軍第3師団長と肇慶の警備司令官を兼任）に任命されました。この頃には、軍人として中央の政局にも深く関与するようになります。

袁世凱の死後、同年10月には莫栄新は広恵鎮守使（広恵の守備隊司令官）を兼任し、12月には広東第2混成旅旅長に異動しました。その後、1917年（民国6年）11月には広東督軍（広東省の軍司令官）に任命され、軍人としての頂点を極めます。

1918年（民国7年）8月、陸栄廷らが主導権を握った改組後の広州軍政府において、莫は陸軍部長を兼任しました。しかし、1920年（民国9年）10月、孫文（そんぶん）を支持する陳炯明（ちん けいめい）に敗北すると、莫は下野して上海に逃げ込み、高崇民（こう すうみん）という偽名で潜伏しました。これは、軍人としての彼のキャリアに終止符を打つ出来事でした。

1928年（民国17年）秋、莫栄新は故郷の桂平に引退し、静かな余生を送ります。そして、1930年（民国19年）3月30日、桂平にて病没しました。享年78歳（満76歳）でした。

莫栄新の生涯は、清朝末期から中華民国初期という激動の時代を生き抜いた一人の軍人の姿を浮き彫りにしています。彼は、軍人として数々の要職を歴任し、地方行政にも携わるなど、多才な人物であったと言えるでしょう。

参考文献
徐友春主編『民国人物大辞典 増訂版』河北人民出版社、2007年。ISBN 978-7-202-03014-1。
劉寿林ほか編『民国職官年表』中華書局、1995年。ISBN 7-101-01320-1。

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