菅家文草

『菅家文草』は、平安時代を代表する学者であり政治家でもあった菅原道真によって編纂された、全12巻からなる漢詩文集です。この文集は、道真が昌泰3年（900年）8月に、醍醐天皇の依頼に応じて、自らの作品を年代順にまとめたもので、祖父である菅原清公の『菅家集』6巻、父である菅原是善の『菅相公集』とともに朝廷に献上されました。

現存する『菅家文草』は、成立当時の原形をほぼそのまま伝えているとされており、平安時代の漢詩文の姿を今に伝える貴重な資料となっています。文集の内容は、前半6巻が漢詩468首を収め、後半6巻には、賦、序、詔勅、奏状、願文など、多様な文体の散文159首がジャンル別に収録されています。

詩風は、唐代の詩人である元稹や白居易の影響を強く受けており、『白氏文集』からの語句や表現の引用が見られます。その詩は流麗で優美であり、技巧を凝らした美しい表現が特徴です。一方、散文は、四六駢麗体を中心に、芸術的な美文と、実務的な論文の二つに分けることができます。特に、宮廷への上奏文や公式文書などでは、その文才が遺憾なく発揮されています。

『菅家文草』は、平安朝漢詩人の詩文集として最大規模のものであり、別名「道真集」とも呼ばれています。道真の文学的な才能だけでなく、当時の文化や社会情勢を知る上でも重要な資料です。

『菅家文草』が献上された後、道真は太宰府に左遷されることになります。左遷後の漢詩文は、別の文集である『菅家後集』にまとめられており、その内容や表現は『菅家文草』とは異なる特色を持っています。

『菅家文草』は、当時の貴族社会における漢文学の隆盛を示すと共に、菅原道真という稀代の才能が、詩と文の両面で卓越した能力を持っていたことを示す作品と言えるでしょう。その内容は、単なる文学作品としてだけでなく、歴史や文化を研究する上で貴重な情報源となっています。

参考資料

菅家文草 12巻 国立国会図書館デジタルコレクション
菅家文草 日本古典籍データセット - ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)

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