城多又兵衛

城多又兵衛（きた またべえ）

多彩な才能を開花させた音楽家

城多又兵衛は、1904年3月30日に三重県で生まれ、1979年3月30日に生涯を閉じました。彼は、声楽家（テノール）としての活動に加え、音楽教育者、音楽学者、作曲家としても傑出した業績を残しました。

音楽家としての歩み

三重県立津中学校（現在の三重県立津高等学校）を卒業後、1929年に東京音楽学校（現在の東京藝術大学音楽学部）を卒業、さらに1931年には同校の研究科を修了しました。その後、イタリアに渡り、1934年までローマのサンタ・チェチーリア音楽院で学び、船橋栄吉やスコラーリに師事しました。

1936年にヴェルディの『レクイエム』で歌手デビューを果たし、その後、演奏会形式でヴェルディの『椿姫』アルフレード役を歌いました。また、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』やオペラにも出演するなど、テノール歌手として幅広く活躍しました。

1951年には、日比谷公会堂でヘンデルの『メサイア』のソリストを務めるなど、コンサートでもその才能を発揮しました。

教育者としての貢献

城多又兵衛は、音楽教育においても非常に重要な役割を果たしました。1942年にはすでに東京音楽学校の助教授を務めており、戦時中には日本音樂文化協會の理事も務めました。その後、東京藝術大学附属高等学校の校長、東京藝術大学音楽学部声楽科教授、愛媛大学教育学部教授、大阪大学教授、京都学芸大学教授を歴任しました。退官後も上野学園大学、作陽短期大学、昭和音楽短期大学などで教鞭をとり、後進の育成に尽力しました。

特にソルフェージュ教育に力を入れ、多くの優れた門下生を育てました。その中でも、伊藤京子と中澤桂という戦後日本を代表するソプラノ歌手を育てたことは特筆すべき業績です。他にも、坂本博士や石井健三など、多くの優れた音楽家を輩出しました。

さらに、教科書や指導書の編纂、音楽教育に関する論文や寄稿も旺盛に行い、音楽界全体への貢献も非常に大きいものでした。

発声法研究のパイオニア

城多又兵衛は、発声法の専門家としても知られており、1964年には音声生理学者の須永義雄、柴田睦陸とともに「発声指導法研究会」を設立しました。この研究会は、1971年に「日本声楽発声学会」と改称され、現在も活動を続けています。この活動は、日本の声楽教育の発展に大きく貢献しました。

作曲家としての側面

城多又兵衛は、作曲家としても才能を発揮し、多くの校歌を手がけました。確認されているだけでも以下の学校の校歌を作曲しています。

千葉県野田市立福田第二小学校校歌
東京都文京区立千駄木小学校校歌
山梨県南都留郡西桂町立西桂中学校校歌
三重県立白子高等学校校歌
高田学苑歌（私立高田中・高等学校、三重県）
三重県津市立一身田中学校校歌
秋田県仙北市立神代中学校校歌
千葉県柏市立柏中学校校歌
愛媛県松山市立八坂小学校校歌

晩年と追悼

1979年3月30日、75歳で亡くなった城多又兵衛の死後、音楽雑誌『音楽芸術』や『音楽の友』には、教え子である坂本博士や河本喜介による追悼文が掲載され、彼の功績を偲びました。

主要な著書・論文・解説

城多又兵衛は、教育者として多くの著作や論文を発表しました。以下にその一部を挙げます。

『譜の読み方から歌曲の歌い方へ』(1956年、音楽之友社)
『一 － 六年生の唱歌』(1948年、音楽之友社、共編)
『音楽図説』(1955年、岩崎書店、千蔵八郎共著)
『ピアノによる総譜のひき方』(1976年、全音楽譜出版社、千蔵八郎共著)
多数の音楽雑誌への寄稿・論文
コールユーブンゲン、ダンノーゼルのソルフェージュ、コンコーネなどの解説

ディスコグラフィー

城多又兵衛は、歌手、指揮者として多くの録音にも参加しました。

夏の魅惑 －黒潮の唄
燃えよ若人
樟蔭学園校歌
交声曲“皇太子殿下御誕生奉祝歌”
全國女子中等學校合唱コンクール課題曲範唱　女聲三部合唱 うるはしの朝
男声三部合唱：山はさけ
女聲三部合唱 椿
混声四部合唱：『万葉集』より 痩人を嗤ふ歌
混声四部合唱：あかがり
混声四部合唱：流浪の民
コールユーブンゲン、コンコーネのシートレコード
* SP音源復刻盤 信時潔作品集成

これらの記録は、城多又兵衛の幅広い活動と、音楽界への多大な貢献を物語っています。

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